第20話
文字数 1,213文字
☆☆☆
部室。空調設備は整っているとはいえ、古いエアコンのぶんぶん唸る音は、いただけない。
そのぶんぶんとうなる音に気を散らしながらも、おれは、今日、完成させるべく、原稿用紙のマス目を小説で埋めている。
もうすぐ完成、というところで、ひばりが声をかけてきた。
「バンド小説」
「ん。そうだよ」
「言い換えるなら、『つながり』をテーマにした小説」
「好意的にとらえてくれるんだな」
「まあね。でも、現実のこの世界のあんたとつながりが欲しいと思ってるのは、一体誰かしら」
「ん? んー? おまえとか?」
「ばっかじゃない! んなわけないでしょうがっ! わたしだってプロの歌手よ! 引く手あまたなんだから。それなのに、誰があんたなんかと……ッ」
「じゃあ、誰だよ」
「あのねぇ……。話は聞いたわ。で、あんたは本当にバカだってのがわかったわ。ラズリーちゃんと会って、この世界の仕組みと真実を知って、それでどうしろっての? 身の程をわきまえなさい!」
「んなこと言われてもなぁ」
ひばりはきりっとした鋭い目でにらむ。
「あんた、今年の七月三十一日以前のこと、覚えてる?」
「なんとなく。いろんな夢、白昼夢なんかも見るようになって困ってたなぁ、という記憶がある。ペティの姿になったり」
「言い方を変えるわ。それ以外に、鮮明に覚えてること、ないんじゃないの。ひとつも」「そういや七月三十一日。ゲーム療法中に目覚めたような記憶がある……。それまでは、胡乱な」
「〈現実〉で覚えてること、あんたひとつもないでしょ。夏祭りが〈雨月市小学校銃撃事件〉から三年間なかったことすら〈知らない〉のよ、あんたは」
「なんでそう断定口調で言うんだよ」
「あんたが新参者だからよ。〈この世界〉のねっ」
「それって」
「考えなくていい。ただ、ラズリーちゃんは嘘つきなんかじゃないってこと。わかる?下手なこと言ったら殴るからねっ!」
泣きそうな顔になるひばり。表情のころころ変わる奴だ。
「行ってあげなさい、ラズリーちゃんのところに。〈伝えたいこと〉、きっとあるんだと思うわ。あんたの心の奥底に、ね」ひばりは、
「ラズリーちゃんなら毎日、この時間は図書館にいるはずよ」と付け加える。
書いていた原稿ももうすぐ終わる。続きは夜中にでもやればいいだろう。
なにをしないといけないかはわかった気がする。
壱原ラズリーとまた会うこと。会えば、なにかが打破できる。
間違いなく。
「ナタク」
「部長と言え」
「早退すっから」
「勝手にしろ。それより、今日の更新、期待してるぞ。うちのサイトの連載小説。書き上がるんだろうな」
「もちろん」
「じゃあ、行ってよし」
「さんきゅ」
「早く行け」
「ああ」
おれはナタクに挨拶を済ますと、部室を早足で出て行く。
左京に挨拶でもしに行こうかと思ったが、あいつもあいつで部活と折り合いがつかないみたいだし、挨拶をするのをやめる。
おれは、雨月市立図書館を目指して、学校の門をくぐって、外へ出る。
部室。空調設備は整っているとはいえ、古いエアコンのぶんぶん唸る音は、いただけない。
そのぶんぶんとうなる音に気を散らしながらも、おれは、今日、完成させるべく、原稿用紙のマス目を小説で埋めている。
もうすぐ完成、というところで、ひばりが声をかけてきた。
「バンド小説」
「ん。そうだよ」
「言い換えるなら、『つながり』をテーマにした小説」
「好意的にとらえてくれるんだな」
「まあね。でも、現実のこの世界のあんたとつながりが欲しいと思ってるのは、一体誰かしら」
「ん? んー? おまえとか?」
「ばっかじゃない! んなわけないでしょうがっ! わたしだってプロの歌手よ! 引く手あまたなんだから。それなのに、誰があんたなんかと……ッ」
「じゃあ、誰だよ」
「あのねぇ……。話は聞いたわ。で、あんたは本当にバカだってのがわかったわ。ラズリーちゃんと会って、この世界の仕組みと真実を知って、それでどうしろっての? 身の程をわきまえなさい!」
「んなこと言われてもなぁ」
ひばりはきりっとした鋭い目でにらむ。
「あんた、今年の七月三十一日以前のこと、覚えてる?」
「なんとなく。いろんな夢、白昼夢なんかも見るようになって困ってたなぁ、という記憶がある。ペティの姿になったり」
「言い方を変えるわ。それ以外に、鮮明に覚えてること、ないんじゃないの。ひとつも」「そういや七月三十一日。ゲーム療法中に目覚めたような記憶がある……。それまでは、胡乱な」
「〈現実〉で覚えてること、あんたひとつもないでしょ。夏祭りが〈雨月市小学校銃撃事件〉から三年間なかったことすら〈知らない〉のよ、あんたは」
「なんでそう断定口調で言うんだよ」
「あんたが新参者だからよ。〈この世界〉のねっ」
「それって」
「考えなくていい。ただ、ラズリーちゃんは嘘つきなんかじゃないってこと。わかる?下手なこと言ったら殴るからねっ!」
泣きそうな顔になるひばり。表情のころころ変わる奴だ。
「行ってあげなさい、ラズリーちゃんのところに。〈伝えたいこと〉、きっとあるんだと思うわ。あんたの心の奥底に、ね」ひばりは、
「ラズリーちゃんなら毎日、この時間は図書館にいるはずよ」と付け加える。
書いていた原稿ももうすぐ終わる。続きは夜中にでもやればいいだろう。
なにをしないといけないかはわかった気がする。
壱原ラズリーとまた会うこと。会えば、なにかが打破できる。
間違いなく。
「ナタク」
「部長と言え」
「早退すっから」
「勝手にしろ。それより、今日の更新、期待してるぞ。うちのサイトの連載小説。書き上がるんだろうな」
「もちろん」
「じゃあ、行ってよし」
「さんきゅ」
「早く行け」
「ああ」
おれはナタクに挨拶を済ますと、部室を早足で出て行く。
左京に挨拶でもしに行こうかと思ったが、あいつもあいつで部活と折り合いがつかないみたいだし、挨拶をするのをやめる。
おれは、雨月市立図書館を目指して、学校の門をくぐって、外へ出る。