第98話 再開

文字数 1,301文字

早朝、糸音は部屋の外から物音が聞こえて目を覚ます。ふと窓の外を見ると椿が何かを持って森の中へと入っていくのが見えた。
 
「椿?」
 
糸音は気になり、静かに外へ向かう。
 
「たしか、こっちだったか」
 
糸音は椿が向かったであろう森の中へと入っていく。しばらく歩くと何やら石を叩く様な音が聞こえてくる。そして、川の辺りまでやってくるとそこには刀を持った椿が大きな岩へ向かって太刀で斬撃を入れていた。
 
「はっ!」
 
椿の太刀筋は雑だが、鍛えればそこそこいい線行くと糸音は思った。
 
「朝からどこへ行くのかと思ったら。剣の稽古か」
 
「!?」
 
椿は剣を構えるが、糸音を確認するとすぐに構えを解いた。
 
「なんだ糸音か、ごめん起こしちゃった?」
 
「いや、いいよ。それより鍛えてるんだね」
 
「うん!いつか兄さんの役に立ちたくて。まぁ独学なんだけどね」
 
よく見ると椿の持っている剣は刃のない模擬刀だった。
 
「私で良ければ、稽古に付き合ってやろうか?」
 
「えっ!いいの!じゃあお願いしようかな」
 
「了解」
 
糸音はその辺に落ちている木の棒を拾うと構える。
 
「えっ?そんな木の棒でいいの?危ないよ」
 
「今はこれで十分だよ」
 
「ぐぬぅ、なめよって。とおー」
 
椿は剣を構えると突っ込んできた。
 
「悪くはないが、直情的で真っ直ぐな太刀筋だな」
 
糸音は軽く避けて、木の棒で軽く頭を叩く。
 
「あいた!ふぅー、やっぱり動くもの相手だと変わってくるね」
 
「今まではその岩で?」
 
「そう!ミナモさんは私に稽古つけてくれないし。だから糸音、頼むよ」
 
真剣な顔で糸音にお願いする椿。
 
「わかってるよ、私もいざという時のために鈍ってたら困るから」
 
「よし!」
 
その日以来、椿の剣の稽古に付き合ったり、二人で一緒にいることが多くなった糸音。そして翌日、紅羽は皇王から手紙を貰うとルクスリアのもとへ飛ばした。
それから数日が経って、ルクスリアが京に来ることになり、さらに数日が経った。そして今日はルクスリアのお迎えのため京の近くの港で四人は待っている。
 
「兄さん、ルクスリアって人、吸血鬼なんでしょ?」
 
椿は少し怯えながら紅羽にきいた。どうやら人見知りと吸血鬼という人外のものに対してえらく怯えているみたいだ。
 
「安心しろ、奴は吸血鬼になってしまったがいいやつだ。なぁ糸音」
 
「そうだな。来たぞ」
 
そうこう話しているうちにいつのまにか船が近くまで来ていた。そして港へ着くとルクスリアが船から降りてきた。
 
「ようよう、吸血鬼さんや」
 
「相変わらずだな紅羽」
 
椿は紅羽の後ろに隠れる。それに気づいたルクスリアは椿に目線を合わせて話かける。
 
「君が紅羽の妹だな、名前はたしか椿だったか。よろしくね」
 
「よろしくです」
 
椿は少しだけ会釈して紅羽の服にしがみついていた。

「嫌われたなルクスリア」
 
「糸音か、しばらくぶりだな。元気だったか」

「あぁ、悪くない日常を送っているよ」
 
「そうか、、そちらは紅羽達の家のメイドさんだね」
 
「ミナモと言います、滞在中何かございましたら何なりとお申し付けください」
 
「ありがとう、数日間よろしく頼むよ」
 
四人は再開も早々に洋館へと向かった。
 
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登場人物紹介

夕凪糸音(17)


本作の主人公

殺し屋異能一家夕凪家の末っ子。

四年前ある事がきっかけで夕凪家から出て行く。

理由は覚えてないそうだが人殺しはもうしないと決めているそうだ。

学園に通う数ヶ月前、夕凪家当主である夕凪志貴に倒れているところを発見され保護される。

志貴に再開するまでの四年間の記憶がない。

記憶を失っているからなのか静かで冷静沈着。


ツグハ(25)


夕凪家に仕えているメイドさん。

何でもこなして万能なメイドさんだが実は少し抜けている。

休みの日はいつも何しているか誰も知らない、謎多きメイドである。

雷々メイ(17)


夕凪学園の糸音のクラスメイト

活発で正義感に溢れた関西弁の女の子

あんまり考えなしで行動しがち、誰とでも仲良くなれる性格である。


異については体内から電気を放出しそれを自在に操れる。

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