第6話

文字数 1,318文字

 出城を出たあとは、パウアの村へ向かった。
 村に一つある小さな礼拝堂で週に一度礼拝を行うのが、修道院の仕事の一つだった。
 シーラはファイーナとともに参列し、院長様や副院長様を手伝って聖典を用意したり村人たちの案内をしたりした。
 礼拝が終わった頃には、すっかり日は天頂にあった。慣れないことをやったせいか、体のあちこちがこわばっている。
 礼拝のあとは村長さん宅へ移動して、軽い食事を振舞われつつ、院長様が村長さんとまた様々の事柄を話し合っている。
「そんなわけで、少し人手をお貸しいただければ」
「塀が壊れたとは、そいつは物騒ですねえ。じゃあ、来週にでも人をやりましょう」
「ありがとうございます」
「どうってことありません。朝、ディークスに一緒に行ってもらえばいいや」
「そうですね。ディークスさんには、朝こちらに来られるときに一緒に来ていただくよう、お願いしておきましょう」
 大きな食卓の端で、シーラは料理の皿をつついていた。すっかりおなかが減ってしまっていた。ファイーナも、自分の皿にあれこれと取り分けて、無言で口に運んでいる。
「それと、これが今回の品物一覧です。葡萄酒はまだこれからなのでおよその量で。あとは、果物と、いつもの焼き菓子と堅パンになります」
「わかりやした。じゃあ、それは今週中には引き取りにうかがいますよ。村の作物と一緒にルマーリアの取引所に運びます。代金はそのときに」
「いつもありがとうございます」
「なに、礼を言うのはこっちも同じですよ。院長様とご領主様があれこれ道筋つけてくださったおかげで、ここもなんとかやっていけるんですからね」
「シーラ」
 ファイーナのささやき声にシーラははっと我に返った。
「ちょっとこれ食べてみな。うまいよー」
 ファイーナの示す皿から言われるまま肉を取り分けて、シーラは食べてみた。
「ほんとだ……」
「ね、うまいだろ? 村長さん、院長様と食事をするときは、あれこれおいしいものを用意してくれるんだよ」
「じゃあ、ファイーナもいつもそういうのを一緒に食べてるの?」
「ほんのたまにね。たいていはちょっとお茶が出るくらい」
 ファイーナは残念そうに首を振った。
「葡萄酒は、また一番に絞ったものをこちらに届けましょう。それで今回の味はだいたいわかると思います」
「今年はぶどうのできがいいっていう話ですから、楽しみですねえ」
 院長様の隣で話を聞いていた副院長様がこっちを見ているのに、シーラは気づいた。
 鬼のように目を吊り上げて、腰のあたりでなにかをはたくようにしきりに手を振っている。はっとして顔を上げると、いつのまにかシーラとファイーナの前には空の皿が何枚にもなっていた。
「ファイーナ、ねえファイーナ」
 あわてて、果物を食べているファイーナの腕をゆすった。
「なに?」
 言いかけてファイーナは、副院長様の形相に気づいたらしい。
「しまった、ちょっと食べ過ぎたか」
 ファイーナはぺろっと舌を出して、あわてて果物を飲み込んだ。
 院長様は相変わらず村長さんと難しい話をしながら、すすめられてようやく目の前の皿に手をつけたところだった。それを見て、副院長様も手を伸ばす。その前に、二人の方を向いてぎっと睨むのを忘れなかった。
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