第7話

文字数 993文字

こんな時間から外に出ることは滅多にないが、それなりに人が多くて驚いた。
世の中にはこの時間からフル稼働している人間がこんなにたくさんいるのか。
ベンチに座りながら、健康的なオーラ全開でランニングしている男女を眺める。
自分とは別世界の住人だ……などと思っていると、後頭部に軽い衝撃を受けた。
「あだっ」
「……お嬢さん、姿勢が悪いですよ」
振り返るとチョップをかましてきたアブさんがニヤニヤして立っていた。
「アブさん、おはようございます」
「おはよ。……つーか、何してんの?ひどい顔」
「今のハラスメントですよ。まぁ、事実ですけど」
「寝不足?」
「いや、睡眠時間的には問題ないんです。ただ、夢見が悪くて」
「ああ、そう。……今日はやめとく?」
「いえ、やります。早いほうがいいと思うので……いろんな意味で」
「頑張るねぇ。あ、ちょっと待ってな」
アブさんが小走りでどこかへ行って、数分後。
ドリンクを両手に持って帰ってきた。
「ほい」
「何買ってきたんです?」
「嬢ちゃんのは豆乳ラテ」
「アブさんのは?」
「……言わない」
「なんでですか」
「またお子ちゃまって言われるから」
「ふぅん……あ、これおいしい」
「そりゃ何よりで」
優しい甘さが口からお腹、お腹から全身に染みわたっていくようだった。
寒い時期に飲むホットレモネードと同じくらいほっとする。
「アブさん、朝は何か予定あります?」
「いんや、ないよ」
「朝からうちに来ちゃいます?」
「いいの?女子は朝の時間、邪魔されるの嫌がるイメージなんだけど……ほら、ルーティーンとかさ」
「ないない。私にはそんなもの無縁です」
「ふぅん、じゃあ行っちゃおっかな。あ、朝飯はもう食ったの?」
「まだです」
「今、家に何かある?」
「あ、ないかも……冷凍のおにぎり食べちゃいましたし」
「じゃあ何か買ってくか。あー、ちなみにキッチン使ってもいい?」
「いいですよ。アブさん作ってくれるんですか?」
「まぁ、目玉焼き作るだけだけど。さすがに調味料はあるよな?」
「ふふふ……うちは調味料だけは充実してるんでね」
「OK。ならそれ飲んでちょっと待ってて」
そう言うとアブさんはまた小走りでどこかへ行った。
ちょうど豆乳ラテを飲み終えた頃、ビニール袋を片手に戻ってきた。
「何買ったんです?」
「んー?パンと卵」
「ほう……じゃあ行きましょうか」
「あいよ」
「……ねぇ、結局ドリンクは何だったんです?」
「……ミルクセーキ」
「ふっ……」
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