第9話

文字数 2,317文字

「うおっ」
茉麻さんのブログに集中していると、アブさんが突然声を上げた。
「どうしました?」
「いや、携帯の電源入れたんだけどさ……」
アブさんが携帯電話の待ち受け画面を見せてくる。
そこには幽霊画の掛け軸があった。
幽霊画と言っても別におどろおどろしいものではない。
むしろ、白装束の女性の凛とした美しさが際立っている。
ただ、ずっと見ていると引き込まれるような、吸い込まれるような不思議な感覚になる。
言うまでもないが、曰く付き。
「私、これ知ってますよ」
「何なの、これ」
「見ると呪われる系のやつです」
「えっ、じゃあ俺今呪われたの?」
「私も呪われちゃいましたね」
「まいったなぁ……」
「ただ、この掛け軸って実物を見た人が呪われて死ぬって話だったと思うんですけどね」
テレビで特集されていたものを写真に撮ったのか、ネットで画像を拾ってきたのか、はたまた実物を見に行って写真に収めたのか。
待ち受け画像を見る限り、そのどれが正解なのかはわからなかった。
だが、待ち受け画像に設定しているということは画像フォルダにそのデータが入っているということ。
画像フォルダを確認すればわかるかもしれない。
「アブさん、その携帯ちょっと貸してください」
「あいよ」
受け取った携帯の画像フォルダを開く。
画像が一覧で表示されるが、そこに明るさはない。
どれも暗い画像ばかり。
ひとつひとつ確認していくと、その手の界隈では有名なものばかりだった。
樹海で発見されたという死体、暗闇に不気味な女性の顔が写り込んでいるもの、何枚かの写真を組み合わせると人の顔が浮かび上がるという心霊写真、首のないお地蔵さん、木の枝に吊るされた古ぼけた人形……。
下へ下へとスクロールしていくと、待ち受けにされていた掛け軸の画像が出てきた。
携帯のカメラで撮影したものらしいが、テレビ画面などを撮影した感じではなさそうだ。
実物を撮影した可能性が高い。
つまり、見た者が呪われて死ぬと言われているものを実際に見に行って、撮影までしたということ。
さらに画像を見ていくと、今度は心霊スポットを撮影したものが出てきた。
廃病院、廃ホテル、廃校、廃寺、空き家、山奥のトンネル……それぞれ中に入って、それもかなり奥のほうまで入って撮影をしていた。
画像の中にはそれらしいものもいくつか写り込んでいる。
うーん……と唸っているとピコンと通知音が鳴った。
自分のパソコンを確認すると、田中氏からメールが来ていた。

件名:ご報告!
本文:ライター殿!
調査結果のご報告です!
添付データをご確認していただきたく!

「早っ……」
「何が?」
「田中氏ですよ。もう調べたみたいです」
「ほう、そりゃすごい」
「データが添付されてるみたいなんで、確認してみますね」

メールに添付されていたデータを開くと、ご丁寧にも調査結果がレポートのようにまとめられていた。
日本人形と仏像は私と田中氏の予想通り、やはり心霊スポットに置いてあったものだった。
日本人形は廃ホテル、仏像は廃寺。
もちろん、それぞれの住所も記載されている。
その他の大半はやはりオークションで落札されたものだった。
出品者の祖母の遺品であるという曰く付きの古いコンパクトミラー、いじめを苦に自殺した子どもが最後まで大切にしていたぬいぐるみ、海外旅行のお土産としてもらってから不幸が続いている木製人形、髪の毛が一緒に編み込まれているストラップ、持っていると悪夢にうなされるブレスレット、元恋人の怨念がこもったネックレス……。
出品者の詳細まではわからないものの、どのような曰くがあるのはしっかりと調べ上げている。
さすがに石については調べようがなかったらしいが、田中氏曰く賽の河原か、某トンネルの入り口に積み上げられている石のどちらかを拝借したのではないかとのことだった。
私個人の印象としては賽の河原かなと思っている。
「で、どうなの?調査結果は」
「さすが田中氏。納得という感じです。一部はやっぱり心霊スポットから、それ以外はオークションで曰く付きを落札したみたいですね」
「ほーん、それで?どうすんの?」
「うーん……昼からはその心霊スポットとやらに行ってみましょうか。アブさんも来てくれます?」
「ああ、いいよ。でもどうやって行くの?」
「住所はわかってるので、昨日のタクシーの運ちゃんにお願いします」
どこからともなくタクシー運転手の名刺を取り出すと人差し指と中指で挟み、びしっとアブさんに見せつける。
「車内で話も聞けるので一石二鳥です」
「おうおう、さすができる女は違うねぇ」
「さっそく電話をしてみましょう」
自分の携帯を取り出すと運転手の番号にかける。
「あ、どうも。昨日名刺交換をさせていただいた者なんですが……ええ、そうです。大男と一緒に震える男を押し込んだあれです。それでですね、今日のお昼に予約というか、来てもらえないかと思いまして。ちょっと遠出になってしまうんですが、2か所ほど回ってほしいところがあるんです。……はい、はい。迎えに来てもらう住所はですね……」
一連のやり取りを終えるとふぅとため息をつき、電話を切る。
「大丈夫そうだった?」
「バッチグーです。ただ……ひとつ問題があります」
「えっ、何?」
「お昼です」
「昼飯どうするかってこと?」
「行く途中においしい定食屋さんがあるんですよ」
「じゃあ寄ればいいじゃん」
「ええ、そうなんですけどね……ニンニクがっつりの炒め物が最高においしいんですよ」
「ああ、においが気になっちゃうとかそういう話?」
「今日明日くらい私がニンニクくさいの耐えてくれます?」
「……俺も食えばお互いくさくてわかんなくなるんじゃないの」
「ああ、それいいですね。じゃあそれで。運転手さんには申し訳ないですけど」
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