6-13 地獄

文字数 1,024文字

 詮充郎(せんじゅうろう)は一つ息を吐いた後、怒りを湛えたまま静かに口を開く。他の者はただそのしわがれたか細い声に意識を向けていた。
 私は偉大なる陰陽師、銀騎(しらき)朝詮(ちょうぜん)の血を引く一族の嫡男として生まれたが、呪力をほとんど持っていなかった


 私の父はそれに失望し、私には見向きもせずに(ぬえ)ばかりを追っていた

 ……
 銀騎(しらき)家では呪力を持たない人間がどうなるか──例外なく放逐される。故に私の母も、呪力を持たない子を産んだ罪で追放された


 だが、私はただ一人の嫡子であったため、辛うじて追放は免れた。それでも銀騎(しらき)の家に居場所などない


 自室に籠って(ぬえ)に関する文献を読み漁り、呪力がないなら科学的なアプローチはできないかと勉強を続ける日々だった

 ……

(だから科学にこだわるのか……)

 年頃になって、一族の中から優秀な娘が選ばれ婚姻させられた


 ──そこからが真の地獄の始まりだった

 ……
 妻は、心の優しい女だった。こんな私にも甲斐甲斐しく尽くしてくれた


 だが一族の長老達は人を人とも思わない命令を私達夫婦に下した

 ──
 まだ子どものお前達にはわからないだろう


 妻に一族から優秀な男を与えるから、その子どもを次期当主として養育しろと言われた私の屈辱が!!

 ──!
 ……
 私はそれを断固拒否し続けた。そんなことになれば、その子どもが当主になる頃には、私は銀騎(しらき)から追い出される


 偉大なる陰陽師・銀騎(しらき)朝詮(ちょうぜん)の血を最も濃く受け継いでいるのは私なのだ!たとえ呪力が表に出なくとも、血は、血は嘘をつかない!


 私は遂に妻と実子をもうけることに成功した。その子がなんの力も持っていなかったら、親子三人死ぬ覚悟でな

 ……
 ──私は賭けに勝った!


 息子の紘太郎(ひろたろう)は生まれてすぐに類稀なる能力を一族に示し、開祖以来の天才と謳われた!


 紘太郎(ひろたろう)を次期当主として育てることで、私は中継ぎながらも銀騎(しらき)の当主になった!だが、妻は長く生きられなかった……

 ……
 あの子は──紘太郎(ひろたろう)は妻によく似た優しい子でな。私のことも慕ってくれ、科学者としての私の仕事も覚えると言ってくれた


 そこから私達親子は二人三脚、私は科学方面から、息子は陰陽術方面から(ぬえ)の研究を進めていった。


 ツチノコというキクレー因子を持つ新しい生命体を発見し、私達親子はまた(ぬえ)に一歩近づいた

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登場人物紹介

唯 蕾生(ただ らいお)


15歳。男子高校生

怪力なのが悩みの種

九百年前の武将、英治親の郎党・雷郷の転生した姿


周防 永(すおう はるか)


15歳。男子高校生

蕾生の幼馴染

九百年前の武将・英治親の転生した姿


御堂 鈴心(みどう すずね)


13歳。銀騎家に居候している少女

英治親の郎党・リンの転生した姿

永と蕾生には非協力

銀騎 星弥(しらき せいや)


16歳。高校一年生

銀騎詮充郎の孫で、銀騎皓矢の妹

鈴心を実の妹のように可愛がっている

永と蕾生に協力して鈴心を仲間に入れようとする


銀騎 皓矢(しらき こうや)


28歳。銀騎研究所副所長

詮充郎の孫

銀騎 詮充郎(しらき せんじゅうろう)


74歳。銀騎研究所所長

およそ30年前、長らく未確認生物と思われていたツチノコを発見、その生態を研究し、新種生物として登録することに成功した


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