第6話「スローイン、ファストアウト…?」

文字数 1,708文字

 研修旅行、2日目。

 5月18日 14:00 

 あー、海が青い。青い。綺麗だ~。オレ、感動。

地元の海は荒々しくて、岩ばっかりで、青いというより深い紺。

荒れると茶色い。魚は美味しいのだが。


 さて、2日目の午後は、魅惑の水着タイムである。

男ども、オレの水着姿に見惚れて声を失うがいい。

…うそです。ごめんなさい調子に乗りました見ないでください。

――――――――――

 14:45

 ドーナツ・ジェットなるマリン・アクティビティー。

5月だけど。我々北の民の高校生にとって25度オーバーは真夏。 イエス、夏。

モーターボートに引っ張られる、二人乗り用の、ラフティングみたいなビニール製ボート。

小さいころお庭で遊んだ小っちゃいプールが思い起こされる。


 結構速くて、楽しそう!なまら楽しそう!!

オレはスピード系には強いのだ!

ジェットコースター平気!お化け屋敷は×!


 「え、コレ2人乗りナンスか?」

お行事よく並んでるオレ達の後ろから聞こえる、聞き覚えのある、抜けた声。

「あ~!五呂久先生、良いところに!メンバーずれちゃってマコひとりになるとこだったんですよ~一緒に乗ってあげて~!」

何それ?聞いてない。余計なことを言うなユキジ…!

「お~。マコじゃないか。今ちょうど、2人乗りと聞いてショックを受けていたところだ。乗っていいかい?」

ふざけんなあ~何でアンタとふ、ふたりでだ!?

必死に拒否ろうか! あいや拒否んのわりいし? 恥ずかしいし?

でも今、乗っていいかって聞いたな。ちょっとは配慮してるわけ?


 とか考えていると、更に背後に人の気配。

いつの間にか一般客が増えていた。はよせえや、と無言の圧力。 やべ。

「い、いいですけど~ま、いいですけど~」

――――――――――

 15:00 海上アクティビティー

 モーター音が結構大きくて、あせる。

ビニールボートに取り付けられた取っ手にがっちりつかまる。

最初のGで実は落ちそうになる。こらえるのだ、我が鉄の左腕よ!

腕立て10回できないけどな!


「おわわわわわわ」

なんだ!五呂久も余裕ないじゃん!てか、何んで右に傾いてんのアンタ!

垣間見る横顔は非常に真剣に見える。

てか、かなり焦っているように見える。


 ぷ、なさけないなぁ!いい大人が! 4つも年上の癖にぃ。

「まままっまっままマコ!」

ななななに?

オレにも余裕がない!

「お前、体重何キロ?」

殺すぞこの野郎!!

「いあああごめん!そういう意味じゃなくてな!」

どう違うんだ!セクハラ教師!

「俺の体重は67キロでな!」

意外と重いな!背高いし、細いのに筋肉ついてたな!(実はみてた)

「さささっきからな!右に傾いて浸水しているんだが!体重差がありすぎだ!」


なななななななんだってえええ!!

「いやまて、落ち着こう。」

あせってたのアンタだろうが!

「物理的に考えて、次の左カーブが最大の危機だ。」

今までのライン取りから考えて、確かに次は左カーブ!

「いいか、一気に左に体を傾けろよ!?」

五呂久せんせー、いつかみたいに右手をグっとして見せる…。

「いいか!くるぞ!」

「はい!」

「いいかマコ!コーナーに入る時はな!!」

「ここでくるかー!」

「スローにん…ぶへぁ!!」

二人同時に、ボートから吹き飛ばされるオレたち。

「素浪人ってなにー!?おぶっ!」

オレの叫びは波音にかき消された。


 本日のドーナツ・ジェット、唯一の落下。救助カップル一組。

どうやら、一般客にはそのように噂されたらしい。

――――――――――
 
 22:00 消灯時間

 消灯時間というものは、強引設定就寝タイムである。

んが、その設定ごときで、高校生が寝るものか。


 オレ自身はとっとと寝たいのだが。

ボート事件のせいで、散々皆にイジられて、ツカレタ。


 それに何と言っても。ここから先の時間は、コイバナだ…!

オレには関係ねぇ!

「…で、…なんだってさぁ~」

「ひゃ~♪」

「で、つぎマコだよ~!どうなの~誰なの~?」

答えないオーラを身にまとうオレ。しかしまあ、あんま強固に拒否ると雰囲気壊すんだよね…。

なんて言おうか、居ないって。興味ないって。多分。


「だれなの~?ヒント~!」

取りあえず、口から出まかせでも、取りあえず言っとけ、オレ。


「…素浪人…」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み