第18話「ユキジ指令」

文字数 1,554文字

 ユキジ指令その①、情報を掴め!

今日のミッションは放課後だ。さりげない日常会話から、ゴロクの情報を引き出す。

そりゃもう、一番聞きたいのは決まってる。

「彼女…居る?」

うん、居ないでほしい。ぞ。変人だから居ないと思う。

…でも無駄にイケメンだからな…。いたらどうしよう。

勇気を出せ、オレ! 頑張れ、オレ!

――――――――――

 18:00 音楽室前。

 音楽室を閉める音。ゴロクと七菜香の声。

「ありがとうございました!定期演奏会頑張ります!」

「おう!頑張ろうな!あのホールは…」


 何で一緒に歩いて出て来るんだよー。まさかな~。

いや、七菜香もキレイ系だしなぁ…。

部活同じってのは強みだなぁ。部長だから最後に出て来るし…。


 あ、何この気持ち。嫉妬? ふ、オレも嫉妬を味わう時が来たか。

…何て余裕はない。離れてほしいな… あ…今のオレ…カッコ悪…。

でも七菜香、もう引退じゃない? ウチと同じじゃないの? 定期演奏会後なの?

いいな…先日、大泣きして引退したオレのことは誰にもナイショだ。


 モヤモヤするけど…今日は諦めだ。引退後、即遊びに来たテイでここまで粘ったけど。

偶然じゃない時、2人きりになるって難しいんだなぁ…。

…あれ、オレ、なんか変なこと言ってる気がする。

――――――――――

 翌日。18:30

…何で、今日も一緒に出て来るんだよ~

 翌日。18:30

…まさか、付き合ってないよね…?


 翌日。土曜。定期演奏会のチケット貰っちゃった。行ってみるか。

15:30 市民ホール

へぇ、ゴロクが指揮するんだぁ。じーっ。


 演奏が始まる。オレは、後ろのほうの席に座った。前の方はご家族に譲るよ。

3年生最後の演奏かぁ。

頑張ってるなあ。気持ちわかるよ。ソロパート格好いいじゃん、七菜香。

…頑張んなよ。


 最期の挨拶で涙を流す3年生たち。オレも拍手していたよ。普通にね。

そして、ゴロクに花束を渡す。ゴロクは、客席に深々と頭を下げた。そして3年生たちみんなと握手を交わす。

…帰ろ。今日はオレのターンじゃないみたい。

――――――――――

 明後日。18:30

音楽室を閉める音。

オレは勇気を出して、廊下に出る。


 今まで何ともなかったのに。 スゴイ勇気がいる。どきどきする。

「よう、マコ。一昨日来てくれてたろ。ありがとな。」

「え、気付いてたの?」

「見えたよ。一番奥に居ただろ。」

そっか。気づいてくれてたんだ! えへへ。

えへへへへへへへへ。

いや、我ながらキモイからやめよう。


 「あ、あのさゴロク…せんせい」

「ん…なんか不気味だぞ…?」

う、今までどう呼んでたっけ。

「ごろくん…」

「それは辞めろと言うに」

「オレの卒業制作、見てくれた?」

「あぁ、見たぞ。食い物を描くところがお前らしい!流石だ!似合い過ぎる!見た瞬間にマコ作だと判った!」


 くっ…また始まったな!

「卒業制作作品のでかいヤツはどう!? あ、あれね、光悦せんせいが、<まるで恋の様だ>って褒めてくれたんだよ?」

こ、この流れから、恋人居るか聞く作戦! 上手くいけ~!


「恋ねぇ…」

「<恋>って言う字は!」

ここで来なくてもいい!


「人を<心>で<変>えてしまうから<恋>。」

あ。

うん、オレ…わたし、変わったよ? キミのせいで、こんなに変わったよ!

だから、<恋>か。 初めて、ゴロクの言葉に納得してしまった。


「ていうか<変な>心だから<恋>?」


 オレの桜色に暖かくなった心は、一気に茶色くなっていった。

「いや、もう…いいデス…何も言わなくてイイデス…。」

「で、お前の絵が何だっけ?」


 オレはせっかくのタイミングを打ち砕かれ、トボトボ背を向けて歩きだした。

「お~い、まこ~?」

振り向いて。

「んべーっ!!」


 あぁ、こんな子供っぽい事しか出来ない自分が情けない。

ミッション① 失敗!!


 ユキジぃぃ~、難しいよぉ~!!
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