第19話「男の過去は…!」

文字数 2,526文字

 10月。部活を引退し受験モード。

だけど、周りと一緒に団体戦って訳じゃないのが、中学校と違う所な気がする。


 文化祭で生まれたカポー達も、両立できなきゃ続かない時もあったり。

とは言え、アナタ方は一歩、歩み出したワケで。何も進めないオレは違うワケで。


 16:40 美術室

実際ちょろちょろ顔出してるが、またまた寄ってみるか。我が美術部よ。


 がちゃ。

「おっす!みんな、おらマコ!」

「きゃー!まこせんぱ~い!!」

「マコ先輩~!北条サマ描いて~!!」

「ひょぱっくん描いて~!」


 ふふ、かわゆい奴らめ。そう言われると断れないよ~。

オレは懐から(鞄から)必殺のコ○ック・チャオを取り出す。

「先輩!私にも描いて!幕末ヘブンの新田サマ!」

「お、おう!」


 この子は。新副部長、茨戸しのん。すごく良い子。頭いい。背高い。そして…。

オレより、絵がうまい。


 美術部は、ある意味カーストが存在する。比較的おとなしい子が集まるこの空間でも、微妙に存在するのだ。上手い奴が、崇められる。まぁ、そりゃそう。

だからオレは、この子にちょっと引け目を感じてしまう。

いや、正直言えば。この子は、オレに、絵の道を選ばせなかったキッカケなのだ。

勿論、しのんは何も悪くないけど。本物の才能を間近に感じ取ってしまった。多芸は無芸。とか。それがオレ。

…五呂久ならなんて言ってくれるかなぁ?


 そんな風に考えながら、笑顔を崩さずイラストをサクサク描き上げるオレの隣に、ドスンと座るでかい影。

美術教師、鷹栖光悦せんせい。mY顧問。

今日もマル眼鏡が決まっている丸っこいおじさんだ。


 「マコちん、お前少し変わったなぁ~。」

「なんでスか?」

「さぁなぁ、まぁ良い方へな気がする。」

「別に今までも悪くないし。てか、先生オレの評価いつも低い。」

「評価はずっと10だったろ」

「みんな居るところで評価ばらさないでくださーい!」

「そうそう、そのツンツンが、旧マコ。」

「………」

「何で絵画専攻じゃなく芸術総合へ?」

「………秘密でーす…。」


 ぶっこんでくるなぁ~。聞かないでよ。

オレは、素早く今描いてる絵を切り上げて、後輩ちゃん達に向けて言う。

「ごねんねえ!あとのイラスト描いたら持ってくるからねえ!」

「またきてねえ!」

「マコパイセン、おつ~!」

嫌いな先生ではない。いや、好きな先生の一人だよ。

しかし、今はその話題に触れてほしくない。


 オレは、足を職員室に向ける。まっぁ、そろそろ居るだろ。アイツ。

勿論、表向きは公式な用事で、寄るだけだ。頑張るよユキジ!


 17:30 職員室。

 こんこん。

「失礼します。図書委員、澄川真珠、五呂久先生に用事で来ました。」

「ハイ、どうぞ。」入り口近くに座ってる教頭先生。

頭を軽く下げ、職員室中央近辺窓側、コピー機横のゴロクの席へ。


 「おう、マコ。何のようだい?」

「朝言ったじゃん。生徒会誌で新人教員の突撃インタビューって。」

少し、声が上ずってしまうのを自覚しつつ。

「じゃんとか。話し言葉は選べよ…ここは職員室だよマコくん。TKOだTKO。」

「TPOな。定番すぎて引くわ~。」

「基本なのに…。」

オレにとって、今日のインタビューは特殊な意味を持つ。

だからこそのインタビュアー立候補…!


 「こほん…さて…インタビューですが…」

真剣な瞳で、オレと五呂久の間に火花が散る!

「ご、ご趣味はなんですか!」

「見合いか!?」

「丁寧に言っただけじゃん!」

「音楽だよ!知ってるだろ。カラオケって書いておいて!」

…変なことわざ作りじゃねえの?あれはクセか?


 「それでは次!好きな芸能人は?」

ここで、オレの後ろを横切る巨大な影。どすんと座る。

おあぁ、美術教師、鷹栖光悦!五呂久の隣か!暑苦しいブロックだな!!

「う~ん、しいて言えば…しいて言えばだが、<アヤメ様>かな?」

何!? キレイ&せくすいー系か!?

く、ちょっとショックだ…オレにボデーの優位性なぞ存在しない。

「良いねえ…」

うなずいてんな!光悦!!


 「次です!スマホに入っているゲームを教えてください!」

「拒否!!」

言えねえのかよ!どんなの入ってるんだよ!?


 気を取り直せ、オレ。

まだ、聞きたいことが聞けてないだろ!

「過去の面白エピソードを教えてください!」

「男の過去を聞くんじゃありません!男の過去ってのはなぁ!」

キタ。

「8割が恥で2割が自慢なんだよ!!」

うんうん

頷いてんじゃねぇ光悦!!

てか職員室の先生方!頷いてんじゃねえ!!


 「こ、これも黙秘するなら、次ね!?」

大事なのは、次だ。

「それでは…それでは、多くの女子が気にしているのですが!」

息を吸って。頑張れオレ!これは公式な仕事なんだから変には思われない!!

「付き合っている人、いますか?」


 五呂久、一瞬目を閉じて。

「いない。」

オレは連続で、畳みかける。

「どんな子が、好みですか?」

「拒否!!」

「なんで!?」

「なんか最近の生徒会誌、深いよ? 文○砲みたいだよ!?」


 言い争うオレと五呂久の後ろを、巨体がゆっくり通り過ぎた。らしい。

(気が付かなかったけど。)

その後結局、職員室を追い出されたオレ。

鞄を取り、上着を羽織り、大きく息を吸って、玄関に向かう。


 ちょっとまぁ、一番大事なことは聞けたから。いいや。

カノジョ、居ないんだ。

カノジョ、居ないんだ。カノジョ、居ないんだ。

ふふっ

ユキジに報告ぅ!


 真横から。鞄を背負った巨体がのそのそ来る。

光悦せんせいだ。

「面白かったよ。変わったなぁ~、マコちんや。」

「そうですか?」

「そうだな、ツンツンからツンデレかな?」

オレ、ぴたっと足を止める。やっぱ言われているのか職員室!?


 光悦せんせいは、周りをきょろきょろ見渡して人が居ないのを確認すると、

「マコちん。我が美術部先代部長よ。内緒で教えてあげよう。この間、先生方の飲み会でな…」

ほう、そんなのもあるんだ。まあ、あるか。


<横に居たら、チョッカイかけずにいられないような、可愛い子がいい。>

「五呂久先生は、そう、言ってたよ。内緒だぞ。ぐっばい、マコちん。」


<お前、からかい易いからな。からかわれるために生まれてきたような奴だよな。>


 急いで、玄関を走り抜ける。

誰も見るな。今のオレの顔を見るな!


 オレの顔は多分、

今。世界で一番キモイ!!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み