第23話「白い天使の噛み応え」

文字数 2,948文字

 PM 13:05

 職員室の扉は大概しまっているが、扉には大きめの窓がついていて、全貌はともかく結構外から見える。

何でも、オープン化とか情報開示とか、そんなお堅い理由らしい。

先生方も哀れだな。社会的弱者だな。まぁ、そんなこたぁどうでもいい。今のオレには教員の家族などいないのだから。


 さて、ごろくん、何処かな~

…中に生徒が多すぎて窓から見えん!

はぁ、大盛況ですなっ!

本日、2月14日!!

男どもドキドキの日!


 期待の目で周囲をさりげなく見渡すのは止めたまえ。わかっちゃうから。

職員室の混雑など。売り場の通路すら存在しないカオスに比べたら!

手作りなどという可愛らしいことに挑戦はできないオレ。

ユキジとチョコ買いに行った先日の散財?は実に2万を超えた。

本命、義理、友、家族、色々込みで。


 おかげで今月入れる予定の課金分が!

北条サマの画集!あちらの予約特典を流すわけには行かないので、オヤツ代を削るしか!!

あぁ。まぁ…やむを得ない。ある意味決戦の日だから。


 決戦の日?

いや違うよ、告白じゃねえの。ユキジと周到に練った作戦で、決めているもの。

<3月12日>に決めてるもの。


 「マコ、それまでにどれだけ、気になる女生徒(あのコ)度数を高められるか!!だよ!!」

ユキジのアドバイスにこれまで従ってきた。これからも、そうする。だってあの子が俺を裏切ったことは、ただの一度もないもん。

だから、今日は、ジャブなのだ。


 PM 13:08

 さて、女子生徒でごった返す職員室に突入。

ちなみにチョコは、俗にいう「不要物」である。が、わが校では、スマホやお菓子などどいうものは、授業中でなければ良し。

授業中は大問題。下手すると停学。ちなみにウチは一応、地元では進学校。


 いやまぁそう言うワケで。昼休みにお菓子を持っていても、スルー。

職員室の先生方もバレンタインはウエルカムなのだ。


 まぁ、予想はしていたが、五呂久の前に人だかりが出来てやがる。

そう…だよね、学校の先生の中では一番だろうし(顔だけな)。若いし、ヘンだし、歌うまいし。

オレは、小さな体を活かし、スペースを潜り抜け、ようやく五呂久の後ろに潜り込む。そして机の上を…見た!


 なにそれ!!

マンガと恋愛ゲームでしか見たことない、山!!

マウンテンだよ!食べ放題のチョコファウンテンだよ!!

もともと汚ない机の上で、既に雪崩が起きている。


 「はい、五呂久せんせ~!」

「お~ありがとう~!感謝~!」

ナンダヨ ソノ ニヤケタ顔…。

「あ、先生やばいじゃん!おっきいの混ざってんじゃん!」

「え~!?誰それ本命ってやつ!?」

「いや~それはないってないって。アイツちゃんと、<誤解しないで下さいね!>って置いてったぞ」

ワカッテ イナイヨウダガ ツンデレ ノ テンプレ ナ?

ざわつく生徒たち。 だろうさ!本命の鉄板と噂される<リリン・フォン・デ・バール>のチョコじゃん!どうすんだよ五呂久!


 PM13:15

 予鈴という邪魔者が鳴ってしまった。まずい。色々、まずい。

「五呂久センセイ!」

オレは後ろから声をかける。

「おう、マコ。マコもくれるのか?そいつは嬉しいな。」

「沢山もらって嬉しそうですね!」

「そりゃ嬉しいけど…!」

「はい!いつもありがとう!一応あげます!」

オレは後ろ手に隠していたものをヒョイと山の頂点に置いた。頂点にね。すぐ崩れたけど。

「おお!ありがとうマコ!良いのか、こんなすごいの貰って!」

大きさは、さっきの<あのこ>にも負けてない。真っ白な、銀と白に藍色のレースライン入った四角い箱。

中には、きっと見た者を惑わせたりゴカイさせたり、もしかしてと期待させたりする、ホワイトチョコのエンゼル像が入っているんだぜ…!!

<ハート打ち抜きます>みたいな!超意味深!7000円だぜ…!

…ど、どきどきするがいい!五呂久!

「ほほうマコちんや、本命かいな?」

と、横にいる光悦せんせい。(my部活顧問…やべ、こっちにも、あげとかねばな、ギリを。)

「…いつもお世話になってますから!鷹栖先生も、どうぞ~」

あからさまな義理を置いていく。すまない先生!でもちゃんと500円だから!

「やべ~時間…!」

バレバレな誤魔化しの言葉で何かを濁しつつ、職員室を去る。

ごろくん、どんな顔でチョコ見てる?

振り返ってみる。でも、ゾロゾロ入り口に集まる同志たちの壁で、五呂久の顔は少しも見えなかった…。


 PM 18:30 自習室。

 入試2次まで、あと10日。勉強はさすがにしている。

そろそろ、だなぁ。

「ユキジ、そろそろだね。来るかな。」

「まぁ、我らのリサーチによれば、そうですな」

参考書やらなにやら、鞄に乱雑にツッコミ。

階段を駆け下り。駐車場側、職員裏口へ。そして二人して柱の陰へ。


 まるでストーカー行為である。てかそのもの?

今日だけは気になるんだもん。チョコのこと話してないかなぁ?

五呂久は、毎週第3金曜日には、早く学校をでるのだという。

五呂久、実はまだ、音楽活動やってるらしい。ライブハウスで。

…行ってみたいけど。すっごく。


 念のため言っておくが、これはユキジ&MSC(マコ・サポーターズ・クラブ)のサーチによるもので、オレがストーカー行為をしているわけではない!

さらにそのM・S・Cもユキジがいつの間にか立ち上げたもので、当方は関与しておりません。

勝手に秘書がやったことであります!ありがとう秘書!


 といっても、毎度必ずこの時間な訳ないし、通ったところで、チョコの話題なんかしてないかも。

大体、1人で帰るなら誰かと喋ってるわけないじゃん。

いや、1人なら、声かけてみようかな…?アホだ、オレ。こんな行動、意味ないし…。


 通用口の、ドアノブが軽く、かちゃりと金属音を立てる。五呂久?来た?

「いや~まぁ、数だけは貰えましたよ。帰って食べます。」

チョコの…話題!

「いやいや、僕なんか3つですよ。若いもんは羨ましい!」

この声、光悦センセイか。

「それで、大きいの2個、どんな中身だったんだい!?」

うわ、心臓の音やば。この音でバレないかな!


 「まぁ、プライベートなものを外で言うのも何ですが…」

五呂久はきっと辺りを見回したんだと思う。

「…勿論義理チョコですよ。放課後ちょっと開けてみたんですけどね。クラスの子とウチの部の部長ですから。」

んー? なんで義理断言されている?

「七菜香のは普通の四角でしたけど…マコのは」

キューピッドが弓を構えてたでしょ!?意味深でしょ!?

「…小便小僧だったんですよねえ~。」

崩れ落ちる、オレ。


 「なんだそりゃ。見間違えでは?エンゼルか何かの」

「いや、間違いないんですよ…ちゃんとアレが再現されていて」

「あはははは!流石、マコちん!普通じゃないね!」

「一体どういうメッセージか…測りかねるんですよね、アイツの言動は」

「いや、愛でしょ愛!あははは!」

2人の教師は、笑いながら別々の車に分かれ、走り去っていった。


 涙目のオレ。横に居るユキジを見る。

「こおの、ばかちんがぁ!!」

すぱかーん!!

フライパンでスイカを叩いたような音が駐車場に響き渡る。

ユキジに激しく一撃をくらったオレの体は涙と共に飛んでいった。


 だって、弓を構えてるエンゼル、手に取ったつもりだったんだもん!!

別のモノ構えてるなんて思わなかったもん!!
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