第3話「人の目を気にするな?」

文字数 1,941文字

 4月12日。13:25 体育館。
 
 1年生ちゃん達が入場してくる。

YEAR~!! い・ち・ね・ん! い・ち・ね・ん!! YEAR~!!

 入場してくる1年生ちゃんの顔が引きつっている。

うん、わかるよ、オレらもそーだったなー。


 この時間は…戦争だ!!

俗にか正式にか。このイベントを、1年生争奪、部活動紹介という。

…そうでなければ、誰が好き好んで、こんな格好をするのか?

 オレが着ているのは、某サムライマンガ「幕末ヘブン」の主人公の着物である。

1年生ちゃんの前に特設されたステージの上で、コスプレ。


 オレ達、美術部の出し物は、「幕末ヘブン」のコスプレをしながら、目の前でイラストを描き上げるという、何ともアクロバティックな、それでいて受けるかどうかわからない、更に恥ずかしいというリスキーなものだ。

今日一日で美術部バイアスが構築されること受けあい。

「きゃー!マコ~!カッコいい~~!!惚れる~!」

「似合う~!!さすがワイルドマコ~!」

クラスメートから飛ぶ遠慮ないヤジ。黄色い声。なんで黄色なんだろうな。

…ワイルド言った奴、あとで覚えてろ!!


 屈辱!勿論、屈辱でしかない!恥ずかしさに耐えるのは全て後輩ゲットの為!

まったく!オレはそんなキャラじゃないというのに!


 だが、そんな屈辱に耐え演技を始めねばならない。

オレの前に差し出される、大きなA3ケントボード。

オレは腰に差した刀を抜き、一気にケントボードに切りかかる。

我が愛刀、菊一文字(ポスカ黒)よ、うなれ!

…決まった。

家で28回練習した、地元のゆるキャラ、<ひよぱっくん>のイラストが。

…また、つまらぬものを描いてしまった…。

薄目を開けて、1年生ちゃんの反応を見る。

目の前に、カメラを抱えた新担任、厚真五呂久の姿があった。

なんか、親指を立てて、「グっ」てジェスチャーしてきた。

志ネ…!

――――――――――

 15:25 H・R
 
「みんな、なかなか見ごたえのある演技だったなぁ。1年生沢山入るといいな。」

まぁ、そう言うだろうよ。月並みなセリフ。

こいつら教師ってのは、どうしてこうも白々しいセリフを―――

「せっかくだから。報われろ!」

…裏のない瞳で言えるのかな。才能なのかな。演技力なのかな。

本心?それとも、バカ?


「私、今日のために家で29回も踊ってきたのにしっぱいした~!!」

キョウカ。ご苦労さん、オレより一回多いな。

「私も演奏失敗しちゃった…1年生来なかったら練習の意味ないじゃん!!」

エミリ、何回練習したか言ってほしいな。

「お、オレ、3ポイント一回も入らなかった!」

佐野か。それは痛かったな。大丈夫だよ、大半のヤツ外してたから。

みんな、口々にガッカリ発言をし、教室は、うるさいわりに暗い。


「待て、みんな。」

五呂久せんせーが口を開く。

キタ!?

オレは机の中のノートを取り出した。

「演技が失敗しようが、コスプレが痛かろうがそんなことはどうでもいいんだよ!」

まて! 今、密かにオレをディスったろ!?

「花は、人に媚びるために美しく咲くんじゃない!」

おお!? ディスっておいてマトモな!?

「虫に媚びてんだよ!」

なんか、がっかりだよ!!

「あの有名な、腐った匂いの花とか!最初はやっちまったなぁと!思ったんじゃないかな!?」

それオレらの例えだよな!?

「しかし、沢山ハエとか寄ってきたので勝者た!!」

ハエも来なかったらどうすんだよ!?

「ハエも来なかったら!あんな風に咲いちゃだめだと、子孫が学習するよ!安心しろ!」

安心できません!当代で報われてません!

「…なあ? マコト?」

オレにふるんじゃねええ!!

――――――――――

 15:50 美術室

 オレは、教壇に立つ。黒板の真ん前。

ここからは、意外に後ろまで見えるものなのだ。後ろだからわかんねえだろうと、早弁する奴らの行為が、実はバレバレだということがよくわかる。

「起立。はじめよっか。 こんにちは!美術部の活動をはじめます!」

「はじめます!!」


 部活のスタートは常に黄金のパターンだ。だがそれがいい。

「部長、新入部員来てるよ!?見学じゃん?逃がすなよ~!」

副部長のユキジが1年生ちゃんを招き入れる。

わあ…5名の1年生ちゃん。嬉しいぞオレ。

全部で5名、全員おんな!

思わずカー○様の口調になる。


一人目。 「先輩、カッコよかったです~」

二人目。 「コスプレ素敵でした~」

三人目。 「<ひよぱっくん>最高でしたぁ~」

四人目。 「私、絶対入ります~お願いします~!」

ふん、まー悪い気はしない。報われた気もする。

五人目。「先輩、女子だったんだぁ…超イケメンいると思ったのに!」


 オレは教卓に突っ伏して、たぶん真っ赤になって。

ゲラゲラ笑う部員どもを見上げた。


なるほど、別な形で惹かれる虫はいるものね。


うれしくねえええー!
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