第10話「かつ丼密会」

文字数 2,214文字

 16:00

 五呂久は窓に向かい、夕日の刺す窓のブラインドから外を眺めている。

オレは、椅子に座り、その後姿を眺める。

部屋には、オレと五呂久の二人きり。


 言っておくが、ドラマみたいにドキドキなシーンではない。

あ、でもこの後がちで告白だったりしたらどうしよう…てまぁ、んなはずはない。

 ここは、生徒相談室。

相談事、会議、生徒会の作業などに使われるが、一番多いのは説教。

通称、「取調べ室」。


 オレ、なんかしたっけかー。

――――――――――

 「マコ」

「は、ハイ」

しまった、つい真面目な返事をしてしまった。

「白状しろ。」

・・・・・・

「何を!?」

「オマエにも、田舎に母さんが居るだろう?」

「地元におるわ!この前ハンバーグ屋で会っただろがぁ!!」


「母さんが泣いているぞ。」

「泣いてねえよ!今日はこの後飲み会行くってよ!!」


「…お前、ちゃんとお天道様見て歩けてんのか?」

「当たり前じゃあ!」

「…オレは無理だ、目が焼けるじゃないか」

「だったら聞くなし!!」


「…かつ丼でいいか?」

「あほかー!」

「いや、オレの今日の夕飯だ。」

「知るか―!!」


「…ふ、そろそろ探偵ごっこは終わりにしよう。」

「刑事ものだし!!」


「う~ん、やっぱ言いづらいな…。」

五呂久は背中を向け呟いた。

え!?

まさか?本当にオレに…だった?

え、出会って3か月だよ!

そんなこといいの? あるの? クビになるよ?

クビになってもお前が欲しいとか言ったりするのか!?


 「…お前、一昨日、駅前のカラオケ屋の前でタバコ吸ったか??」

「…………」


 オレは深いため息をついた…。

「吸うわけないじゃん!しかもテスト期間中にカラオケ行くかー!ママに殺されんだろ!!」

「だよなぁ。だから聞くの嫌だったんだよなぁ~。」

「ん?もういいの?」

「マコが吸うわけないだろ。」


 五呂久はくるっとこっちを向いて笑った。

たった一言で信じてくれるなら、一体、前段の刑事ごっこは何だったのか!

信じてくれたことは嬉しいけど。五呂久。


 五呂久はオレの向かいの椅子に座った。

「と言うわけで帰っていいぞ。お前に似たヤツがタバコ吸ってたとかで。違うと思ってたが聞かなきゃならん役割なんでな~」

「最初の要らんのでは!?」

「うん、要らんな。やはりお前を見ると、何か、からかわないといけない義務感が湧く。」

きいいいいい 見てろよ!逆に遊んでやるからな!今に見てろよ!!


 あ、思いついた。 逆襲してやらぁ!

「ごろくんっ、このあとパフェ一緒に行くぅ?」

上目使いに微笑みを作って、どうだコノヤロ!照れろ!この前みたいに照れちまえー!


 五呂久は腕を組み。

「…今日はかつ丼に決まってんだよ。行きたかったがワリいな!」

って返して来やがった!おのれ! 負けるか!

「うん、ごろくんと一緒ならかつ丼でもいいよ。」

くっ!! 顔が熱い…恥ずかしい…!汗が出る!何でこんな展開になってる!?

「くっ…!そう言うことなら連れてってやってもいいが、忙しいだろオマエ?」

「ちょ、丁度昨日でテスト終わってるからね!ママも遅いからいいよ!ごろくん!」

オレと五呂久は夕日を浴びつつ、お互いに退けない引きつった笑顔で…。


かつ丼を食いに行くことになった。

マジか――!!

――――――――――
 17:30

とんかつ屋 伊勢


「…好きなの頼め…食いしん坊ばんざい…」

くっ…まずい、この展開でホントに最上級400g頼んだらオレの食いしん坊がバレる。

てか、店の中で制服はオレだけだ…。


こ、こんな時はどうしたらいいですかユキジ先生!?

「ご、ごろくんと同じのにする~!」


よし、上手くやったぞオレ!これでボールは向こうだ!

「くっ…やるなマコ」

「くっくっく、周囲の目線を読んで頼めよごろくん…。」


「お前、このために昼抜いたんだろ、大きいの行こうぜ。」

卑怯者!オレの為に見せかけてヒレカツ大、行く気だな!?

それじゃ再びオレが食いしん坊じゃん!!

キタねー!大人キタねー!


「じゃぁ、ヒレ並にしよ。えへへ、多いかな!?」

どうだ、この小食アピールを覆さないと自分も並だぞ!

「くっ…。お願いしまーす!ヒレ大2つ~!」

「え~ムリムリ~(思ってない)」

「多かったら俺に寄越せばいい。(来ると思ってない)」

「うん。きっと多いからあげる。(絶対やらん)」


 くーっくっくっく!勝った!オレの勝ちい!!

――――――――――

 19:00 オレの家。

「あー、マコ、一つだけ言っておくが。」

ま、想像はつく。誤解されるから誰にも言うなとか言うんだろ。

「ナンパとかで知らない奴の車には絶対乗るんじゃないぞ…。オレの車から降りて来たのだって、お母さんが見たら超絶心配するぞ。」

言わないんだ。誰にも言うなって言わないんだ?


「…んと、ごろくん、ありがと。ご馳走様。美味しかった~。食べ過ぎたぁ~。」

「カツ大がめっちゃ似合っていた…。」

「何か言ったか?ん?」

「…じゃぁな!マコ、お休み!」

ゴロクの車は走り去っていった。


 戸締りをきちんとして、ママがまだ戻っていない部屋の明かりをつけ、

それから、ちょっと寂しいからTVをつけて、ソファーに座り。


 急速に顔が赤くなってきた。

オレ、オレ、もしかして今日、初めてオトコとデートした!?

デートのカウント入る?入らない? デートの定義って何!?


は!? そうだ!自分でやってみよう!

「デートってのはなぁ!」

…思いつかねええええ…。


 冷静に考えて、せんせいと意地の張り合いで行ったカツ飯が入るわけないかー。

…たぶん。
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