第24話「最終回 ふたり語録」前編
文字数 1,814文字
3月12日、12:07
3年間がどうであったかと聞かれたら、勿論人並みには語れるし、楽しかったかと言えば、楽しくて最高だったし。
人生のパートナー?であるユキジともずっと一緒だったし。
妙にテカリの激しい証書ケース、よくわからない人たちのお言葉など。
ああ、1年生ちゃんの入学式と変わりはしないが、一つだけ違うといえば、
卒業の歌を歌うときに、ちょっと泣いちゃうことだろう。
別に、お膳立てはいらなくて、卒業の重さが勝手に泣かせてくる。
担任。厚真五呂久がオレの名前を読み上げて、オレは校長から証書を受け取る。
五呂久、あぁ、声が震えてるよ。泣いてるんでしょ?格好つかないイケメンだなぁ…つられちゃうよ。泣かせないで。
証書も…。校長じゃなくて、五呂久に貰いたかった。
12:22
担任の最後のホームルームで、みんなでお金を出し合って買った、ネクタイを渡す。
渡す役は勿論、オレだ。立候補ではなく、強制だ。わかるでしょ?
ボロボロ泣きながらネクタイを受け取る五呂久。
でもオレは泣かない。だって…。
…これからも一緒に、いたいんだから。
嫌っていうほど、毎回なんかするたびに、この人に出会ったよ。
運命信じちゃうよ。例え、その半分がユキジの策略でも。
だから、ほんのちょっと。夕方まで。 バイバイ五呂久。
15:00
卒業式というのは、お弁当がないので強制的に午前で終わる。
先生方も、この日は一年で一番緊張する日で、疲れ切って早く帰るんだとか。
だから、オレはずっと駐車場で待ってるんだ。
五呂久が、あの扉から出てくるのを待ってるんだ。
例え、ほかの先生が一緒でも、告るんだ!!
オレはもう、生徒じゃないもん!
16:00
雪降ってきたけどね。
準備は良いんだよ。傘持ってきたよ。
足冷たい。さむ。うま。
17:00
なにが卒業式の日は早いだよ。
泣けてきたよ。
強がってるけど、不安でどうにかなりそうだよ!
知ってるよ!? 七菜香のこと、振ったんでしょ!?
オレは、あの子とは違うよね!違うよね!いっぱい話したよね!
クリスマスのディナーまで一緒に居たのはオレだよね!
早く出て来いよ!
…出てきてよ。
17:45
扉がカチャって小さく鳴って、五呂久が出てきた。
慣れてない堅そうな黒い礼服と白いネクタイ。左手に卒業担任に送られる花束を持って。
あと10秒遅ければ凍っていたな、オレ。
オレは、傘をさして、震えながら、五呂久の前に立った。
「どうしたんだマコ?顔真っ青だぞ。なんでこんな所に?」
心配そうにオレをのぞき込む。
「…ごろく…せんせい。」
息をのむ。乾いて、なんか飲み込めなくてむせる。
「オレ、卒業したよ…知ってるよね?気づいてるよね?」
「オレの気持ち、知ってるよね…!」
「せんせい、お、オレを、彼女にしてください…!」
言った!
言えた!
なんだろう、また涙出てきたよ
五呂久は一歩、オレの前に歩み寄る。
周りの音はもう、何も聞こえない。
五呂久は右手を静かにオレの方に伸ばして―
右手は、静かに、オレの髪を…頭を、優しくなでる。
なんで?
なんでそんなに優しく撫でるの? 子供をあやすみたいに撫でるの?
抱き寄せたっていいんだぞ?
ぎゅーってしたって良いんだぞ?
「俺は…」
五呂久は、今まで聞いた中で一番優しい声でオレに言う
「俺は、生徒を愛するわけにはいかない」
「例え、後悔するくらい素敵な娘でも。例え、心惹かれていても…」
「だから―」
オレは、走り出した。
一目散に、逃げ出した。
続きの言葉を聞く勇気はなかった。
傘はいつの間にか持ってなかった。
泣いて、泣いて、泣きながら走った。
沢山の偶然も、楽しかった記憶も、心臓が止まるような瞬間も
五呂久の笑顔も、映画の記憶も、夏祭りの夜も!
消えてしまえ
消えてくれよ!
心がつぶれちゃう前に!
この日、オレの初恋は、終わった。
17:50分
「ウチの大切な部長、泣かさないでくれよ。」
振り返ると、大柄な先輩が、新任教師の後ろにいる。
「…仕方ないじゃないですか…。生徒32人全員の幸せを公平に…それが先生でしょう…。なら、アイツもその内の一人じゃないですか…」
「…女1人幸せにできない奴が32人とか言ってるなよ!」
後輩の俯いた表情をのぞき込み、大柄な先輩は、若者の横を通り過ぎて行く。
「不器用なことだな…。キミも、マコも。」
「何で俺を…せんせいって呼んだんだよ…何で、ごろくんって…。呼んでくれなかったんだよ…。」
傘を拾いながら、不器用な男はそう呟いた。
後編に続くー
3年間がどうであったかと聞かれたら、勿論人並みには語れるし、楽しかったかと言えば、楽しくて最高だったし。
人生のパートナー?であるユキジともずっと一緒だったし。
妙にテカリの激しい証書ケース、よくわからない人たちのお言葉など。
ああ、1年生ちゃんの入学式と変わりはしないが、一つだけ違うといえば、
卒業の歌を歌うときに、ちょっと泣いちゃうことだろう。
別に、お膳立てはいらなくて、卒業の重さが勝手に泣かせてくる。
担任。厚真五呂久がオレの名前を読み上げて、オレは校長から証書を受け取る。
五呂久、あぁ、声が震えてるよ。泣いてるんでしょ?格好つかないイケメンだなぁ…つられちゃうよ。泣かせないで。
証書も…。校長じゃなくて、五呂久に貰いたかった。
12:22
担任の最後のホームルームで、みんなでお金を出し合って買った、ネクタイを渡す。
渡す役は勿論、オレだ。立候補ではなく、強制だ。わかるでしょ?
ボロボロ泣きながらネクタイを受け取る五呂久。
でもオレは泣かない。だって…。
…これからも一緒に、いたいんだから。
嫌っていうほど、毎回なんかするたびに、この人に出会ったよ。
運命信じちゃうよ。例え、その半分がユキジの策略でも。
だから、ほんのちょっと。夕方まで。 バイバイ五呂久。
15:00
卒業式というのは、お弁当がないので強制的に午前で終わる。
先生方も、この日は一年で一番緊張する日で、疲れ切って早く帰るんだとか。
だから、オレはずっと駐車場で待ってるんだ。
五呂久が、あの扉から出てくるのを待ってるんだ。
例え、ほかの先生が一緒でも、告るんだ!!
オレはもう、生徒じゃないもん!
16:00
雪降ってきたけどね。
準備は良いんだよ。傘持ってきたよ。
足冷たい。さむ。うま。
17:00
なにが卒業式の日は早いだよ。
泣けてきたよ。
強がってるけど、不安でどうにかなりそうだよ!
知ってるよ!? 七菜香のこと、振ったんでしょ!?
オレは、あの子とは違うよね!違うよね!いっぱい話したよね!
クリスマスのディナーまで一緒に居たのはオレだよね!
早く出て来いよ!
…出てきてよ。
17:45
扉がカチャって小さく鳴って、五呂久が出てきた。
慣れてない堅そうな黒い礼服と白いネクタイ。左手に卒業担任に送られる花束を持って。
あと10秒遅ければ凍っていたな、オレ。
オレは、傘をさして、震えながら、五呂久の前に立った。
「どうしたんだマコ?顔真っ青だぞ。なんでこんな所に?」
心配そうにオレをのぞき込む。
「…ごろく…せんせい。」
息をのむ。乾いて、なんか飲み込めなくてむせる。
「オレ、卒業したよ…知ってるよね?気づいてるよね?」
「オレの気持ち、知ってるよね…!」
「せんせい、お、オレを、彼女にしてください…!」
言った!
言えた!
なんだろう、また涙出てきたよ
五呂久は一歩、オレの前に歩み寄る。
周りの音はもう、何も聞こえない。
五呂久は右手を静かにオレの方に伸ばして―
右手は、静かに、オレの髪を…頭を、優しくなでる。
なんで?
なんでそんなに優しく撫でるの? 子供をあやすみたいに撫でるの?
抱き寄せたっていいんだぞ?
ぎゅーってしたって良いんだぞ?
「俺は…」
五呂久は、今まで聞いた中で一番優しい声でオレに言う
「俺は、生徒を愛するわけにはいかない」
「例え、後悔するくらい素敵な娘でも。例え、心惹かれていても…」
「だから―」
オレは、走り出した。
一目散に、逃げ出した。
続きの言葉を聞く勇気はなかった。
傘はいつの間にか持ってなかった。
泣いて、泣いて、泣きながら走った。
沢山の偶然も、楽しかった記憶も、心臓が止まるような瞬間も
五呂久の笑顔も、映画の記憶も、夏祭りの夜も!
消えてしまえ
消えてくれよ!
心がつぶれちゃう前に!
この日、オレの初恋は、終わった。
17:50分
「ウチの大切な部長、泣かさないでくれよ。」
振り返ると、大柄な先輩が、新任教師の後ろにいる。
「…仕方ないじゃないですか…。生徒32人全員の幸せを公平に…それが先生でしょう…。なら、アイツもその内の一人じゃないですか…」
「…女1人幸せにできない奴が32人とか言ってるなよ!」
後輩の俯いた表情をのぞき込み、大柄な先輩は、若者の横を通り過ぎて行く。
「不器用なことだな…。キミも、マコも。」
「何で俺を…せんせいって呼んだんだよ…何で、ごろくんって…。呼んでくれなかったんだよ…。」
傘を拾いながら、不器用な男はそう呟いた。
後編に続くー