第8話「発熱の秘密」

文字数 3,034文字

 8:05 教室

 SHR前のわずかな時間は、必須のおしゃべりタイムだ。

まー席につかなくてもいいし。

窓際奥、掃除箱の前。オレらのテリトリー。

「おはよ~マコ」

「おはよう~ゴクツマ」

「きた~、ゴクツマ」

はぁ?

何時からオレの通り名は、いやアダ名はそんなにワイルドになった?

「ちょっと、ナニソレ?」

「ん?マコの新しいアダ名」

はぁ?

「聞いてねえ。」

「ん、言ってねえ。」


 追及を加速しようかというときに、ヤツが来た。

「あ、五呂久先生来たよ。今日も微妙にカッコイイね。」

「そうかねえ?」

ガラっ

「おはよう!今日はお待ちかねの午前授業です。しっかり午前を耐えましょう!」

コイツは何しに教師になったのか、時々不安になる…。

 
 8:25 教室

 五呂久のSHRが終わって、1時限目の数学までちょっと時間がある。

ヤレヤレ、また貯まってきたプリント片しておくか。

 五呂久の家や部屋がどうなってるか、想像がつく。

この教卓横、袖机にバラまかれた未整理のプリントの山を見れば。

オレは見るに見かねて、時々整理してやっているのだ。


 この間なんか、「お、妖精さんが来てくれたらしい。寝ている間に。」

とかほざいてた。


 寝てたんかい!職員室で!!

まぁ、とにかく、今日はあまり疲れない日なので、サービスと言っておこう。

それより、夜は<ゴクツマ>の経緯をしっかり聞きださねばならん。

 昨日ちょっと疲れて、入ってなかったらこれだよ。

まぁ、どうせくだらない理由だ。

――――――――――

 18:48 レストラン。

今日、ママの帰りが早いのだ。

 んで、久しぶりに、ハンバーグの店<ちょっぴりピンキー>に来た。

ここではチーズインチーズハンバーグ+トルネード・パフェが鉄板だ。

合わせてカロリーは2025になるが、オレは平気だ。太らない体質だからな。

このボデーで唯一誇れるポイントなのだ。


 ちなみに、パパはいない。諸事情による。聞くな。

ママはオレと違って背が高くて、オレに似て美人で、オレと違って仕事ができる。

ママは大好きだが、ちと怖い。


 まぁ、そんなママと、愚痴言って、テレビの話して、漫画の話して、食べて。

別バラのトルネードパフェを注文したところで、オレは気が付いてしまった。

 はす向かいの2人掛け席に1人、何やら店員のおねーさんに注文をしている男、五呂久だ。

あ、オレに気づいた…何、そのバツの悪そうな顔?

 少し、時間が経って、その理由が判った。

オレの席に届いたトルネード・パフェ。(超うまそう)

直後に、五呂久の席にもトルネード・パフェが届いたのだった。


 ぶはーっ!

アイツ、そんなん頼んだの!? めちゃ勇気あんじゃん!

そりゃ、何頼もうと自由なんだけど、トルネード・パフェは巨大さゆえにカップルのシェアが多い。店もむしろご推奨。な、パフェを!


 案の定、周囲の視線がチラ見で集まってる。無駄にイケメンだからな。より目立ってる。

…そそくさと食べ始めた。やべ、写真とりたい。


「あれが五呂久先生?あんたが暴行を加え負傷させた?」

暴行とか言うな。母よ。


「うん。目立ってるね~。別に一人様巨大パフェ、いいと思うんだけど、気にする男子多いだろね~。」

と、オレの解説を聞くより早く、ママは五呂久の席に向かい、ひたすら頭を下げている。


その節は娘のせいで先生に大変ご迷惑を…(超小声)

イヤイヤ良いんですよ気になさらず過ぎたことです(超小声)


ヤレヤレ。

まぁ怪我させたのは事実だしな。この間のパンもあるし。

お返しに助けてやるか、五呂久。

「ママ、ちょっとオレ、五呂久助けてくるわ。」

―――――――――

 自分のパフェを手に持ったオレは、自然に、当然のように、五呂久の向かいに座った。

「ごろくん、待った?」

ぶっと噴出さんばかりの五呂久。頼むマジでパフェ噴くなよ?

「な、何言ってんのお前!?」(小声)

「何だよ、せっかく助けに来たのに。目立ちたくないんでしょ?1人トルネード。」(小声)

「何じゃそりゃ」(小声)

「カップルだったら自然でしょ?」(小声)

 五呂久の方へ向けられていたチラ見が、徐々に減ってる気がする。

何だ、カップルだったのか。ちっ

そんな感じだ。

「…ごろくんて、なんぞ?」(小声)

「せんせー、て呼べないじゃん」(小声)

「ごろくん、後でどっか連れてって。」(普通声)

ぷぷぷぷぷぷっ

あははははは~、照れてる!五呂久、絶対照れてる!

おもしれえ、オトコからかうのおもしれえ~

生れて初めてかもしれん!!小悪魔的優越感!ははは!

「チェリーいらないなら頂戴」

「やらん。…桃ならやる」

「くれ。ごろくんやさしい。」

ぷぷぷぷぷぷ 赤くなってるうう!

何か、ごろくんは妙に早く食べ始めた。まったくもう照れ屋さんなんだから。

ぷぷぷぷぷぷ

「ご馳走様!じゃぁな!悪いが先に行くぞ!仕事でな!」(小声)

オレは、席を立とうとする五呂久の耳元で一言、

「パフェ食いたくなったらオレを誘え。助けてやるぞ。」(小声)

「お前バカ…?と、とにかく御馳走様!じゃぁな!お母さんによろしくな!」


まあ、当然注文書は別なので、奢ってくれるわけもなく。

オレはママの所へ戻った。ニヤニヤ笑いが止まらない。


「見た?ママ、見た?おっかしいでしょ~!」

「うんすごく楽しそうだったわ。傍目にはお似合いのカップルだったわね。」

「それそれ!狙い通り。助けてあげちゃった。からかいついでに!」


オレは満面の笑みで、優越感に浸って、かなり舞い上がっていたのだろう。

ママは、ほほ笑んではいたが、何か遠くを見るような眼をして、

コーヒーをすすりながら、オレにこういった。


「真珠、先日ね、職場のおじさんが言ってたの。根拠はないんだけど…」

なんか話しはじめた。

「年取ると、風邪ひいても熱があがんねーんだぁ~だって。ママまだ若いからよくわかんないけど」

「42歳だよね。」

「何か問題が?」(微笑)

「…んにゃ。」

「だからね、熱ってのは…」

なんだなんだ?

無いと思ったら今日は <ママ語録> なのか!?


「…若いうちは良く高い熱を出すものよ。」


何が言いたいのかよくわかんなかった。

ママは、何か考えてる風で、なぜかストローを開け、コーヒーに差し込んだ。

熱いんじゃないかな。

「●×※▲●※★!!!!!!」

やっぱりな…。

――――――――――

 10:36 オレのラブリーな部屋。

<で、ユキジ。ゴクツマって何?>

<えー聞いちゃう?どうしよっかなー>

<ユッキ、まだ教えんの早いって~>

<第一ヒントです。ゴクツマとは何でしょう?>

<だからそれを聞いてんじゃねえかぁ!>

<やだ!教えたくない!もっと楽しみたい!もっと噂にして盛り上げたい>

<お前ら鬼か!さっさと教えろこのロリコンども!>

<違うし。私、筋肉好きだし。>

<まぁ、マコに意地悪しても逆襲が怖いから~>

<マコ、最近、五呂久せんせ~のとこに行く女子減ってんじゃん>

<そだっけ?>

<それはマコに遠慮してなのだ~!>

<はぁ!?>

<最近、なんていうの?机の片づけまで始めちゃって!カイガイシイ?>

<んなもん、見るからにキタネエから片付けてるだけじゃん>

<んで、五呂久の妻>

<五呂久妻>

<ゴロクツマ>

<ゴクツマ>

<いえ~い!良くできましたぁ!!!>

<良くねえ!何勝手に決めてんの!お前ら頭からメタンガス沸いてるだろ!?>

<マコ、頑張って!うちら応援する!>

<困ったらいつでも言ってねマコ!>

<オレの話を聞けええええええ!!!!!>


 パニックに陥ったオレが、ようやくアダナを通常に戻し、眠ることを許されたのは5時間後である。
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