第11話「夜の学校」

文字数 2,080文字

 20:30 校門

 普通なら誰も居ない暗い校門の前。

生徒玄関前にママの車は止まり、職員室の明かりを伺う。

 オレは夜の学校を訪れた。ママとのスープカレーをデザート付きでエンジョイした後で。

だって思い出してしまったのだ!大事な忘れ物を!!

密かに内密に極秘に描いていた恋愛マンガのノートを!

誰にも見せられん!特に部員が見たらオレのキャラは崩壊する!

絶対に見せられん!


 朝の早起きが苦手なオレは、ねだりにねだって、この時間に学校に連れてきてもらった。

…外食でなければ無理だっただろう。勝利だ。


 職員室に明かり。職員駐車場に車一台。

 どっかで見た車だ。黒くてカクカクしていて、フロントが何か「ニヤッ」って笑っている感じのゴツイ車。名など知らぬ。

 …五呂久の車に間違いない。暗くて見えないけど、ナンバーは多分5693だ。自分で選んだんだと思う。アホだ。

が、今日は助かる!人が居る!五呂久が居る!中に入れろオラぁ~!

 ピンポンピンポンピンポン…

「○○高校職員室です」

やっぱ五呂久の声。安心。

 「オレだよオレ。」

「オレオレ詐欺はお帰り下さい。」

「マコだよ!」

「マコマコ詐欺もお帰り下さい。」

「忘れ物したんだってば!入れてー!」

「まったく玄関先で叫ぶなマコ。いま開ける。」


 オートロックがカチャっと開く。

勢いよく玄関に飛び込む。そして五呂久を待つ。

…来ない。

 オレは職員室へダッシュした。勢いよく職員室の扉を開け、

「何で降りてこないのさ!?カヨワイオレが下に来ているというのに!」


「カヨワイってのはなぁ!」

キタ。

「お前の逆の人間だ!」

「ヒデエ!鬼!オレのか弱さを見せてやる!」

「…………」

「何を突っ立っている?」

「…だから…」

「だから?」

「カヨワイ。」

「ぶふっ」

「くっ…」

「…………」

「だから、何故突っ立っている?オレは仕事中なんだが…。」

「だから。」

「何だ?」

「…怖いから美術室までオレと来て!」

「…………」

――――――――――

 8:55分 3F廊下。

 「な、電気つければ怖くないだろ?」

「美術室の隣、音楽室だよ?ピアノの音聞こえたらどうすんの!?」

「ふ、お化けが怖くて夜の学校には居られない」

「じゃぁ出たらオネガイ。」

「ふ…無理だな」

「じゃぁどうすんの!」

「一緒に気絶だな。」

「無事気絶できるように祈るよオレは」


 美術室に到着。五呂久がカギを開け、オレは勢いよく美術室に飛び込む。

そして机の角で太ももを強打した。

「ぐはぁああ!」

「…ちょっと、カヨワイかと思ったが気のせいだったようだ…。」

「うるせー!」


 オレはノートを無事回収。

二人で、廊下に出て、五呂久は鍵を閉める。


 その時だ。音楽室からガサガサ、っと音が聞こえたのは。

「きゃぁああー!」

オレは五呂久に抱き着いた。真正面から。

「おい…ちょっ…」

五呂久は動じて無いようだったけど、オレは超コワイ!何で音がすんの!!

ずっと抱き着いているオレの背中に五呂久はそっと手を回す。

「安心しろ…。落ち着け。ホラ、もう、音しないだろ?」

五呂久の心臓の音が聞こえる。オレ、今、抱きしめられてるよな。うわぁ

お化けどうでも良くなってきたよ!どうしよう!どうしようオレ!

 「窓が開いてんだろ。閉めてくる。待ってろ。」

「ややややだ、一緒に行く。」やっぱ怖いから、オレは後ろに回り、五呂久の袖をつまむ。

「い、いててて…肉、肉つまんでるから!」

「あ、ゴメン…。」


 音楽室を開ける。電気をつける。あ、カーテン揺れてる。プリント飛んでる。

「まったく、しっかり閉めろってんだよなぁ」

「ホントだよ。人騒がせな」


 お……?

音楽室の管理者って誰だ。音楽教師って誰だ。

「アンタじゃん!!」

「ち、バレちゃあ仕方ねえ…」

時代劇野郎の肘の袖を離さず、玄関まで送ってもらう。


 ヤレヤレ、マジでホラー体験かと思ったぜ。

でも。まぁ。その。

さっきの思い出して、またドキドキしてる。何だっての。落ち着けオレ。

ちょっと抱き合う形になっただけだぞ。落ち着けオレ。


 でも、五呂久は落ち着いてて、ちょっと見直しちゃった。頼もしくて…ちょいカッコよかったよ。

「マコ、じゃぁ気をつけて帰れよ。まさかそこの車まで送れとは言わないな?」

「ないない。ありがと、ごろくん。」

「それ辞めろ。」

「へへへ」

「認めよう。お前は時々カヨワイ。」

「でしょ。」

「じゃあな。また明日。」

「うん、じゃぁね!」


 オレは、車に乗り込み手を振る。

ママも、五呂久に頭を下げる。

ママが車を出す。左に回転。ママ側が校舎がわになった時、ママは一度車を止めて、2Fの職員室に向かって頭をもう一度下げた。ごく普通に。そして再び走り出す。

玄関では、五呂久がカギを締めている所だった。


 …血の気の退いたオレは、何も言わず五呂久を見ていた。

「夜デートは楽しかった?」

「ふざけんなし。何で五呂久と」

「誰とも言ってないわよ?」

「………」


 ママに、五呂久と抱き合ってしまった事は言わないでおこう。

そして、ママが誰に頭を下げたかも聞かないでおこう。


 「お化けっ話ってのはなぁ!」

「謎のままにしとけば平和なんだよ!」

決まった…。オレ語録。


そして忘れよう。
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