第22話「映画ってのは!」

文字数 3,301文字

 12月24日 AM 10:30

 シネマ・クルーザー、駅直結ビルの最上階映画館。

 <ハメラレタ。>

絶対、ユキジのワナだ。

何でユキジが座ってるはずの席に五呂久いんの!?


 スマホを消さねばならなくなる前にチェック!

ユキジのメッセージが4件入っている。スタンプだけで。

「ゴメンね!」と手を合わせる萌え男子

「メリークリスマス!」と叫ぶサンタ。

「チャンスをの逃すな!」と書いてある年末宝くじ。

最後に「いけ!いけ~!」と叫ぶイノシシ。


 アホか!

<どう思ってんだろ?>

五呂久、どうもハメラレタっぽいし、怒ってたら、ヤだな。

「寂しい男たちで笑えるイベント起こしましょう!」

そんな男どもの誘いを受け、のこのこと出てきたらしい。

おそらく、その男どもも、ユキジの計略に乗っかっているのだろう。どういう経緯か、激しく疑問なわけだけど。


 実際、セルフ座席指定システムだからこそ出来る芸当!お見事ナリ、策士ユキジ!

オレは…この際だし一緒に観られたら…ちょっとだけ嬉しいけど。

でも。怒ってたら嫌だし。

「オレ、ごろくんと映画全然OKだけど、もし…」

「…オレはぜんっぜん嫌じゃないが、マコが…」

「………」

「………」

「よし、映画を楽しむとするか!」

「うみゅ!」

「…で、これは何の映画だ!?」

「<ペンギン先生>という、アニマルカワイイ系、愛と感動ラブロマンスだそうな」

「…盛りだくさんだな」

「うみゅ。」


 動物園から逃げ出した家族 4 匹のペンギンたち!

なんと一匹が車にひかれて!家族が主人公の大学教授に助けを求めに!

助手の女子生徒(ヒロインぽ)と懸命に頑張るんだけど…だめだった。

<うう…まずい>

うう、可哀想だよおぉ…涙とまんない…あ、鼻水でちゃう…。

横を見ると、プルプル小刻みに震えながら、もう血がにじむかってくらい、唇をかみしめて、目に涙いっぱい浮かべてる五呂久。

ぷっ

やべ、おもわず声に出してしまった。五呂久は赤い顔で、涙浮かべたまま、

「え、映画ってのはなぁ!」(小声)

「登場人物に己を重ねてナンボなんだよ!」(小声)

オレはニヤニヤしながら「そうだネ~オレもそうするよ~」(小声)

と。軽くバカにしていたが。

直後に、このやり取りは後悔することになるのだ。


 ペンギンたちに新天地を与ええようと奔走する主人公!

なんと、全財産を投じて南極近くを通る豪華クルーザーに乗り込む。

夫婦として搭乗する主人公とヒロイン…

…のラブシーン!!

ぶ。

なんでアニマル癒し系に濃ゆい目のラブシーンがある!?

しかも大学教授と生徒だし!?


 五呂久、急にポップコーン食べ出したよ。

オレも取りあえずコーラを手に取り、シーンに興味ない的な姿勢をアピールしながら。(ちらっと見たけど…。)


 さっきの語録が頭をよぎる。つい、口をつく。

「…登場人物に己を…?」

五呂久の動きが一瞬ぴたっと止まる。てか、はよ終われこのシーン!

「いや、あのなマコ…」(小声)

オレ、無言。

「さっきの発言、撤回…」(小声)

デスヨネ!

――――――――――

 PM12:45 シネマ・クルーザー前

「…まさか、最初に死んだペンギンがサイボーグになって復活するとはな」

「オレの涙を返せってパターンだったね。」

「まぁ、楽しかったな。」

「うん。」

「じゃぁ帰るとしよう。朝のメンバーにSNSで文句言っておいて。」

「ちょっと待った。」オレは五呂久のシャツをつかむ。二の腕当たり。

「オレ、5時まで、ママを待たなくちゃいけなくて、ヒマ。もう少し。一緒にいない?」


 我ながら勇気ある発言だったと思うのだが。

顔が爆滅しそうなくらい頑張ったセリフなんだけど!

押せ、オレ!

ユキジとそう、打ち合わせをした!学校では引け!外で会ったら押せ!って!

「ほ、ほらそうすると、クリぼっちじゃなかったって自慢できるよ!?カワイイJKと一緒に居たとか言えるよ!?」

うんて言え!

言って!!

五呂久は、しかめっ面で、こう言った。

「マコ、痛い!痛い!肉つまんでる!!肉!」

…なんで!オレの恋路に胸熱な展開はないのだ!?

――――――――――

 pm15:45 ゲームセンター<キャッツ・マフィン>

クレーンゲームの歴史とか種類とか詳しくないけど。

とにかく、オレの目を引いたのは、大好きな大好きなよだれ出ちゃうほど好きな、人気アニメ<幕末ヘブン>の推し、北条さま!の、ぬいぐるみだ!!!!!


 大きさ15センチほど、クリスマスサンタ服バージョン!!非売品!!!

んで、今それのキャッチを五呂久がチャレンジしている。

ちょっと浮いて~半分持ちあがって~落下。

ちくしょ~!!

「マコ、これちょっと両替してきて!」

「ん~いいの?3000円だよ?これで?」

「良いんだよ!大人の意地を見せてやる!」

「そういうの、大人げないっていうんだよ…はい10枚。」


 といいつつも、期待して渡してしまうオレ。

「見てろよ!…俺の子供のころはヒモがついてる景品が多くてさ、いっつもヒモに引っ掛けて取ってたんだぞ!ついたあだ名が<ヒモの五呂久>だ!」

すっげえ軽薄そうなアダ名だな!!

「届け!俺の怒りよ!」

あ、浮いた。

浮いた浮いた浮いたーー!

「いけええええええええ!西条サマー!」

「ちげぇえええええ!!北条さま―!!」


 大きな景品出口の上に来た!!

落下!!

腕が出口に引っかかってぶらりん!!

オレ達は崩れ落ちる。


 派手にしゃがみこんだオレたちの背後で、

店員のお兄ちゃんが声をかけてくる。

「あー、それは落下で良いっすよ?クリスマスですからね~!」

お兄ちゃん、操作していた五呂久に北条さまを渡す!

「やったあぁああ!!」

「おし、取ったあ!!店員の兄さんありがとう!」

そして五呂久は、自分のポケットに北條さまを収めた。

・・・

くれるんじゃねえのかよ!!!

「冗談だ、ほい。やる。」

この野郎!ちょっと涙目になっちまったじゃねえか!!

「メリークリスマス、マコ。」

「あ、ありがと…。」

とっさにエッジの利いた言葉なんて出ないもんだなぁー。

もっと涙目になっちゃったし。

「…3100円ぶん。」

「………」

サイアク!雰囲気崩壊!察しろ!空気よめ!!

そんなこったから彼女いないんだぞ!!

――――――――――

 pm16:50 MーCハンバーガー前

「時間なっちゃった。この後はママとデートなんだ~。ディナー予約してあんの。残念だね~夜までオレを独り占めできるところだったのに~!」

精一杯の小悪魔ぶり、無理アリアリ。


 あ、ママから電話だ・・・

「真珠、ごめんね!急に打ち合わせが入ったわ。間に合いそうにない。予約のキャンセルは無理だから、アンタ食べておいで。」

「え!?ちょ、ママ何言ってんの!?」


 長話になりそうなのかな?

そんな雰囲気を察して(こういうときだけ察するんじゃねえ!!)

五呂久はオレに手を振る。

「じゃぁな。楽しかったぞ。」

がし。

再び二の腕近辺のシャツをつかむオレ。

「アンタ、連れ居るんでしょ誰か?一緒に食べておいで?料金はもちろん払ってあるからオゴリで平気。」

「えーーーー!!酷くね!?クリスマスにドタキャン!?」

いや。それよりも!

なんで連れが居ることを知っているん!?


 電話口、ママじゃない声が近くに聞こえる。

「お客様、クリスマスバーガーセット、オレンジジュース、以上で揃いましたでしょうか?」

「ばーがーばーがー~M~Cばーがー~♪」

ん?ん?どういう事?どういう事?


 「とにかく、ディナー無理だから!友達と一緒にどうぞ!でも9時くらいまでには帰ってきなさいよ!?じゃぁね!!」

ぶち。


 「痛い痛い痛い肉にくにく!んくつまんでるっつーの!!」

「あ、ごめん~;」

でも、オレは一度離した手をもっかいシャツに伸ばして、ちょっぴりつまみながら、言わないわけにいかない言葉がある。

「あのねあのねあのね!ママ急に仕事入っちゃって、オレ、一人メシになっちゃった!もうキャンセル無理で、お金も払っちゃってて、それで!」

トーン下げ。落ち着け、オレ。…いや、やっぱ恥ずかしい!。

北条サマ、力を貸して!

北条サマ人形を取り出す。人形の両手を操つる。オレの代わりに言葉を伝えて!


「…1人になっちゃった女の子が、一緒にお食事どうですかって言ってます。どうしますか…?」
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