第21話「三者混乱」

文字数 2,442文字

 pm 16:50

 どうやら、先生方の勤務時間というのは本来思ったより早いらしい。

というワケで、この時間は本来、勤務時間ギリらしい。ゴメンねブラックにしちゃって。


 今日は、気の重いイベント、三者懇談である。受験校を決定せねばなんね。

まぁ、オレの受けるところは決まっているのだが。うん。決めた。一応。


 …さて、来た来た。 うちのママ。

珍しく、おしゃれさんキメている。元々綺麗なママなのだ。えへん。怖いけどね!

保険の外周りをしているママ。現在、女手一つでオレを育成ゲー中。


 それにしても。今日は、えらく気合が入っている。

高校選んだ時より、真剣な目が余計不安になる。

ママは。仕事の都合と言うが、時間を最後にしてほしいと希望を出したのだ。これも珍しい。普段なら、「時間指定の人は少ない方が決め易いでしょ。」と言うのだが。

そんなワケで、うちは本日最後の三者懇談。らしい。


 16:30 3-E 教室。

「・・・では、目標のH大学芸術科総合で準備を進めますね。」

「はい、よろしくお願いしますね。」

ママが頭を軽く下げる。

「…で、ちょっと内密な相談がありましてね、五呂久先生。」

「はい。何でしょう。」

「真珠、教室出て、控室で待ってて頂戴」

「何でオレがいちゃまずいのさ?」

「…出なさい。」(にっこり)

やべ、危険なモードだ。取りあえず退散。


 …がしかし、ここでおめおめ引き下がるオレではない。

一度窓の前を通って控室に向かったと見せかけ。

廊下で匍匐前進と言うヤツをやって扉の前に戻る。


 スカートで匍匐前進。ひゃー。

学祭でオレを探してた男たちよ、夢を壊してすまんね。これがオレの真の姿だ。

五呂久とママの話を聞かずに居られるかあ!?

――――――――――

 「さて、五呂久先生、至って真剣に、一人の母親としてお聞きしたいことがあります。一切他言は致しません。こんな時ぐらいしかお話の機会が無いので…本心を聞かせてください。」

何、この展開?

「わかりました、何でしょう?」

「五呂久先生。いや、厚真五呂久さん。あなた、うちの娘をどう思っているのかしら?」


 あああああ!?何言ってんの!? 何沸騰してんの!?そこのおばはん!?

「マコさんは、可愛くて楽しくて、優しい娘ですね。少々言葉遣いがガ……荒い時がありますが、愛嬌ですよ。」

ガサツ言いかけやがったな!


 …てか何だ!?何でママがそんなことを聞いてくる?

ユキジか? ユキジだな!?

<将を射んと欲すればまず馬を射よ>

そういや先週、んなこと言ってたぞ!

攻撃側の馬撃ってどうすんの!


 「…五呂久さん、モテるんですってねぇ。」

なんだ?なんか言い方に微妙にトゲがある?

「いや、変な奴なのであまりモテないですね!」

おおそうかい、自覚があるのはいいことだぜベイビー。

「…遊ばれても困るのよ。真珠は何番目位なのかしらね?」

ち、違うってママ!遊ばれてないって! 告白すらしてないって!!

「22人中、1位ですね。」

お前!それH大模試の校内順位だろ!

「に、22人ですって!?た、大したものね!」

か、かみ合ってねえええ!何この人たち!?

「で、でも1番と思ってはいるのね…はっきり言うじゃない。」

「思っている、ではなくて1番ですよ…?」

だからH大の模試な!校内の順位な!


 「母親の前で大胆なことね?じゃ、じゃぁ、この際はっきり教えておいてほしいんだけど!娘とは…その…いやいやいや、流石に生々しく聞きたくはないわ…」

何を!何をだー!?

「ぱ、ぱーせんとで言うと何パーセント位の深さなのかしらね?」

「…深さ?…パーセントで言うならば、そうですね、85%、ですかね」

それ模試の合格判定な!!

「は、85%ですって!?そんな深く!?」

だ、だめだ…もうダメだよ、このママ

「ショックだわ…いつの間にそ、そんなことに…」

ちげえし!!

「…五呂久さん。責任を取れるのかしら…?」

「…結果に責任を取れはしませんが、今現在。全力で真珠さんに責任を持っています。」

「…………」

「…ちゃんと将来―――――」


 どどどどどどどどど

教室になだれ込むオレ。オレより一回り大きいママを抱え、引きずり出す。

「終わりでーす!!ママ変なの今日~!五呂久またねー!」

あああああああ!叫びまわりたい!何もかも破壊しながら走りたい!!

ママのバカーーーーー!!

オレとママは激しく叫びあいながら、校舎を駆け抜けた。

――――――――――

 10:00 オレのらぶりいな部屋。

「…とまぁ、ママ暴走のわけだけど。ユキジ。あんただよねえ~?」

「ん? 私、マコのママに何にも言ってないけど?」

「うっそお?」

「私がそんな危険なことするわけないじゃん。マコのママが怒ったら、先生方にバレるより先に終わりじゃん。」

「あ、うん、たしかに…。」

<着実に、したたかに>がモットーの策士ユキジ。そういえばそうだよね…。

「うん、そうだね。ごめん疑って」

「困るなぁ私を見くびっては…マコママに言うのはもっと後のタイミングの予定だったのに。」

「何?後ってどんなタイミング?」

「ん?既成事実発生後?」


 あほかー!?

怖いわこの娘!!

――――――――――

 10:15

一階に降りる。ママと、話そうかな。

「好きな人出来たら言って」って、前に言われてたけど。

ちゃんと言ってなかったし。隠してたんじゃないんだよ?ママ?だって判らなかったんだもん。

どうしようかなぁ…。相手がしかも教師だなんて。


 階段を降りたところに、トイレ。

あ。ママ、お花摘み中だったのね。ゴメン。 ガチャっとあけて出てくる。

「ママ、あのね?」

どう切り出そうかな。そもそも、どうしてママは気付いていたのかな。

ママは…今どう思っているのかな?


 「そんなとこで待ってなくても。えまーじぇんしーだった?」

ママは、オレの顔をじっと見る。久しぶりに見る、優しい顔。

「安心しなさいよ。」

え?安心…?応援してくれるの?ママ…。

「…ちゃんと、流してあるわ。」

「あたりまえじゃああああ!!」

 
 どうやら、オレの恋には、ホンワカした色も可愛げもないらしい!
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