第4話 諮問:あなたはなぜ走るのか?
文字数 1,563文字
激甚なるレースによってひいなは内蔵、特に肝臓に深甚なダメージを受けて免疫力がゼロとなり、感染症によって肺炎を引き起こした。
ICUで一週間、昏睡状態にあった。
ひいな・・・
ん?
誰?
ひいな。そなたはなぜ勝てたのだ。
ああ。華乃 か。
勝ててないよ。失格だった。
いや、『敵』を打ち滅ぼした。勝った。
敵って・・・別に神楽 は敵でもなんでもなかったよ。もう走れない、って聞いたし。
では、敵は誰であった?
あのさ、華乃。
バカだと思わないで聞いてくれる?
もちろんだ。
ひいなはバカではない。
じゃあ・・・嘲笑。
・・・うむ。
それから、罵声。小突き。卑怯ないじめ。
・・・うむ。
ナイフ。拳銃。強盗。通り魔。組織的な犯罪グループ。
うむ。
サバイバルナイフ。自動小銃。小型プラスティック爆弾。自爆テロ。テロによる『自分勝手な信念』の成就。
うむ。
戦闘機。弾道ミサイル。空母。AI兵器。原子爆弾。
うむ・・・・・
わたしは、卑怯なものが嫌い。
生理的に受け付けない。
いじめが嫌い。
虐待が嫌い。
テロも嫌い。
自分勝手な信念で戦争を起こす人間も嫌い。
全部全部、わたしのランで、ねじ伏せられたらいいのに。
そなたは闘った。
そして勝った。
華乃
じゃあどうして今もいじめで誰かが自殺してるの?
虐待で誰かが凍死してるの?
テロで大切な人を殺されてしまっているの?
戦争をして自分が儲かる人間が、戦争をやめる方法をわたしに言わせないの?
ひいな。
はい。
わらわも、戻る。
・・・どこへ?
わらわもそなたと同じように走った。
走ったつもりだった。
兄が無能な戦術でもってほとんど領民を全滅させそうになっているその現場に走ってたどり着いた。
そして、わらわは敵の棟梁にわらわの命と引き換えに領民を救うよう申し出た。
そうだったんだ。
今、すべてを思い出した。
わらわは爆薬込めた筒を一本右手に持ち、左手に点火用のロウソクを持ってわらわ自身の爆死を提案した。
そこまでの記憶はあるのだ。
爆死・・・
だから、戻らねば。
結果を確認し、未解決のままであればわらわは更に踏み込まねばならぬ
ダメだよ!
なぜだ。
戻ったら、きっと華乃は自ら死ぬ。
人間の生死はわらわの決めることではない。
自分の命でしょ!
自分で決めなよ!
ひいなは矛盾している。
どこが!
ひいなとて死ぬところであったろう。
・・・・・・うん
だが、走った。
それが理由であろう。
・・・・わからないよ。
ひいな。
走れ。
そなたには走る資格がある。
走れ・・・・・・・・・・
「ひいな坊!」
「はっ!」
角度をつけて上体を起こしたその上から、とんびがひいなを見つめていた。
「ひいな坊・・・よかった」
「とんび?どうしたの?」
「どうしたの、って・・・最後のお別れを言うように、って先生から呼び出されたんだぞ」
「えっ・・・・」
「それなのに、今日に日付が変わった瞬間に心臓も肺も正常に動きだして・・・もう大丈夫だ、ってそりゃ一体なんなんだよ!」
「ご、ごめん!」
「違うよ!俺は嬉しいんだよ!ひいな坊がまだ生きてて、俺は嬉しいんだよ!」
退院した後でとんびに聞いてみると、華乃のことは微かに記憶に残っているのみだった。
ひいなはリアルに覚えている。
華乃と出会ってレースを先導してもらって、そして死ぬ手前の瞬間のあの『諮問』も。
「ひいな。ほんとに陸上部辞めるの?」
「はい。すみません、キャプテン」
「ううん。わたしがひいなを駅伝に誘わなかったら、こんなことにならなかったのに・・・」
「いいえ。もっとずっと、走らずにはいられなくなりました」
「えっ・・・?」
小倉が言った、『こんなこと』とは、転倒して全身の骨折と内蔵破損で入院していた神楽 桜 が、夕べ死亡したという知らせのことだった。
ICUで一週間、昏睡状態にあった。
ひいな・・・
ん?
誰?
ひいな。そなたはなぜ勝てたのだ。
ああ。
勝ててないよ。失格だった。
いや、『敵』を打ち滅ぼした。勝った。
敵って・・・別に
では、敵は誰であった?
あのさ、華乃。
バカだと思わないで聞いてくれる?
もちろんだ。
ひいなはバカではない。
じゃあ・・・嘲笑。
・・・うむ。
それから、罵声。小突き。卑怯ないじめ。
・・・うむ。
ナイフ。拳銃。強盗。通り魔。組織的な犯罪グループ。
うむ。
サバイバルナイフ。自動小銃。小型プラスティック爆弾。自爆テロ。テロによる『自分勝手な信念』の成就。
うむ。
戦闘機。弾道ミサイル。空母。AI兵器。原子爆弾。
うむ・・・・・
わたしは、卑怯なものが嫌い。
生理的に受け付けない。
いじめが嫌い。
虐待が嫌い。
テロも嫌い。
自分勝手な信念で戦争を起こす人間も嫌い。
全部全部、わたしのランで、ねじ伏せられたらいいのに。
そなたは闘った。
そして勝った。
華乃
じゃあどうして今もいじめで誰かが自殺してるの?
虐待で誰かが凍死してるの?
テロで大切な人を殺されてしまっているの?
戦争をして自分が儲かる人間が、戦争をやめる方法をわたしに言わせないの?
ひいな。
はい。
わらわも、戻る。
・・・どこへ?
わらわもそなたと同じように走った。
走ったつもりだった。
兄が無能な戦術でもってほとんど領民を全滅させそうになっているその現場に走ってたどり着いた。
そして、わらわは敵の棟梁にわらわの命と引き換えに領民を救うよう申し出た。
そうだったんだ。
今、すべてを思い出した。
わらわは爆薬込めた筒を一本右手に持ち、左手に点火用のロウソクを持ってわらわ自身の爆死を提案した。
そこまでの記憶はあるのだ。
爆死・・・
だから、戻らねば。
結果を確認し、未解決のままであればわらわは更に踏み込まねばならぬ
ダメだよ!
なぜだ。
戻ったら、きっと華乃は自ら死ぬ。
人間の生死はわらわの決めることではない。
自分の命でしょ!
自分で決めなよ!
ひいなは矛盾している。
どこが!
ひいなとて死ぬところであったろう。
・・・・・・うん
だが、走った。
それが理由であろう。
・・・・わからないよ。
ひいな。
走れ。
そなたには走る資格がある。
走れ・・・・・・・・・・
「ひいな坊!」
「はっ!」
角度をつけて上体を起こしたその上から、とんびがひいなを見つめていた。
「ひいな坊・・・よかった」
「とんび?どうしたの?」
「どうしたの、って・・・最後のお別れを言うように、って先生から呼び出されたんだぞ」
「えっ・・・・」
「それなのに、今日に日付が変わった瞬間に心臓も肺も正常に動きだして・・・もう大丈夫だ、ってそりゃ一体なんなんだよ!」
「ご、ごめん!」
「違うよ!俺は嬉しいんだよ!ひいな坊がまだ生きてて、俺は嬉しいんだよ!」
退院した後でとんびに聞いてみると、華乃のことは微かに記憶に残っているのみだった。
ひいなはリアルに覚えている。
華乃と出会ってレースを先導してもらって、そして死ぬ手前の瞬間のあの『諮問』も。
「ひいな。ほんとに陸上部辞めるの?」
「はい。すみません、キャプテン」
「ううん。わたしがひいなを駅伝に誘わなかったら、こんなことにならなかったのに・・・」
「いいえ。もっとずっと、走らずにはいられなくなりました」
「えっ・・・?」
小倉が言った、『こんなこと』とは、転倒して全身の骨折と内蔵破損で入院していた