第9話 学ぶ女

文字数 534文字

 ひいなは自ら草鞋を編んだ。

 華乃(かの)は疾駆用の足袋を自らしつらえたと聞かされていたからだ。
 そこから始めなければ到底華乃には及ばないとひいなは悟った。

「精が出るな」
「お師匠。なかなかうまく参りません」
「うむ・・・一から学びながらの作業だからな。手はどうだ」
「水分が無くなり、ひび割れてきました」
「そうであろう。痛いか」
「はい」
「どれ、見せてご覧」

 桐谷はひいなの『作品』を手に取ってまるで刀鍛冶が打ったばかりの刀の反りを確かめるような動作で吟味した。

「山の傾斜は右に流れておる割合が高い。右外側の編み方を若干、厚くするとよい」
「そ、そこまで繊細なのですか!?」
「ひいな。半歩着地点を誤っただけで滑落し、命を落とすこともある」

 桐谷は野生動物のこともひいなにレクチャーした。

「マムシ、スズメバチ、ムカデ、山蟻・・・危険な生き物には注意を払っても払い過ぎるということはない。そしてそなたは山中に深夜、ひとりきりであるということを常に思い出さねばならん」
「はい・・・あの、お訊きしてよろしいですか」
「いいよ」
「イノシシは、どうですか」
「うむ。なるたけ相手の気配を感じるようにしてお行き。突っ掛かられたら大怪我するから」
「では・・・クマは?」
「出会わないことを神仏に祈りなさい」
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