第19話

文字数 783文字

「ディフェンス、距離をつめろ!、跳ばせるな!」

この試合初めてクガオミトが声を荒げた。

跳ばせるな、という言葉が、長先輩にジャンプシュートをさせるなという意味であることを理解できた味方コートプレイヤーがいたかは極めて疑わしいところではあった。

ただ、距離をつめろという内容と、思いがけないクガオミトの語気の強さに気圧され、長先輩の傍にいたセンターディフェンスの二人は持ち前の巨漢を活かしながら、精一杯に両手を頭の上に広げて長先輩のシュートコースを遮ろうと距離を潰すべく長先輩に迫った。

二人のディフェンスが六メートルラインを離れると、相手ポストプレイヤーが九メートルライン付近でノーマークになった。

裏が空いた、という状態だ。

「球技というものはすべからくスペースを作り、そこを起点に攻撃するのが定石」

ここには居ない新聞部の女人の声が聞こえた気がした。

セオリーで言えば、キーパーはパスが渡るであろうポストプレイヤーとの距離を詰め、シュートコースを潰す。

しかし、キーパーであるクガオミトは、ゴールマウスの前から動かなかった。

素人のポストプレイヤーより、やはり長先輩が脅威と判断したのだろう。

クガオミトの判断は速かった。

しかし、長先輩の判断はそれよりさらに速かった。

長先輩は無理にジャンプシュートにいかず、迫る二人の壁役の位置を測っていた。

それからクガオミトの動きも合わせて見ていた。

長先輩は手を挙げ、向かってくるディフェンスの丁度その脇腹の位置、クガオミトからはディフェンスの陰になる位置から手首のスナップをきかせて、シュートを放った。

「上手い」

また、声が出てしまった。

視覚の外から、コースをついたシュートにクガオミトは
為すすべはなかった。

ゴールを割られたとクガオミトが気づいたのは、主審の笛の音が鳴ってからだった。

同点。

そして、すぐに前半終了の長い笛の音が続いた。

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