第14話

文字数 1,112文字

危機を脱したクガオミトらは、味方内で声を掛け合っていた。

弧科(コシナ)は長先輩のマークが緩んだのを詫び、クガオミトは「長先輩をマークし続ける役目を担う君の負担は計り知れない」と弧科のチームへの貢献を讃えた。

クガオミトの好プレーは鳥場ら他のチームメイトの発奮材料にもなったようで、各々が自分にできることをやってやるという気概が伝わるようだった。

リスタートの笛の鳴からゲームが再開されたが、長先輩はやりづらそうだった。

弧科は先程とは比べものにならないくらい長先輩のマークの距離を詰め、身体に触れるか触れないかぐらい密着し、絶対にボールを長先輩に触れさせまいとしていた。

長先輩以外でパスを回しても、我がクラスと同様に攻め手を欠き、戦況はまったく変化しない。

業を煮やした長先輩は弧科のマークを振り切ろうとフェイントをかけたり、ステップを踏み、緩急をつけた動きをするが、弧科は主審である守屋先生に見つからないように、抜かれそうになると長先輩の体操着を引っ張ったりして長先輩を逃さまいとした。

長先輩がイライラしているのは、同じチームの丸先輩らにも伝わるようで、丸先輩らは自分たちでなんとか局面を打開しなければと、ディフェンスのゾーンを崩すことができないまま、ゴールから距離のあるところからシュートを放ったりした。

威力のないシュートはキーパーであるクガオミトに簡単にキャッチされ、かっこうのカウンターアタックの材料になった。

弧科はクガオミトと事前に打ち合わせしていたのか、長先輩以外の相手チームの誰かがシュート体勢に入るとクガオミトがそれを防ぐと見越して、長先輩を置いて相手ゴールに向かって走り出した。

弧科がクガオミトからのボールを受け取り、そのままノーマークでシュートされるとさすがに失点の危険性があるため、長先輩も弧科を追わざるをえない。

弧科はクガオミトからのロングパスをキャッチしたが、ハンドボール部員らのように走りながらパスを受け、そのままシュート体勢に入ることはできなかったので、長先輩はなんとかゴールに向かう弧科の前に立ち塞がることができた。

ラグビー部の弧科が単独でハンドボール部であった長先輩を抜く技術があるわけもなく、仕方なく、弧科は他の味方が相手陣内にあがってくるのを待った。

しかし。

部活を引退し、運動不足の長先輩のスタミナと現役のラグビー部で毎日数キロの走り込みをしている弧科のスタミナ。

分があるのはどちらかは明白だった。

この展開が続くと面白いことになりそうだなと思った、が。

「そうか。それが君の狙いなのだな、クガオミト」

私は自軍ゴールで体力を消耗することもなく、涼しい顔をしているクガオミトの顔を見た。

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