第16話

文字数 649文字

7mスローというのはサッカーにおけるPK(ペナルティーキック)のようなものだった。

クガオミトは当たり前のようにボールを持ち、ゴールキーパーと一対一の定位置についた。

しかし、キーパーであるクガオミトがシュートを放つ役を担うということは、コートプレイヤーの六人はディフェンスの定位置についているものの、ゴールはがら空きだ。

わかっているのか、クガオミト。

見せ場は両刃の剣だぞ。

本職(ハンドボール部員)として、この場面のシュートは決めて当たり前。

外せば、チームメイトからの信頼は失墜し、相手チームにゲームの流れが一気に持っていかれない。

主審の守屋先生が笛を吹いた。

相手キーパーの先輩はどこかで見た顔ではあったが、名前を存じあげなかった。

クガオミトはフェイントを入れることなく、ゴールマウスの隅を狙う速球を放った。

シュルルル、とゴールネットがボールにからむ音がしてクガオミトのシュートが決まった。

相手クラスの応援から、「おおー」という感嘆の声が漏れた。

我がクラスの方はというと、応援はほぼ皆無で、コートに立つ味方からは「ナイスシュート」と弧科が声を出し、それに倣って慣れてない感じで他の帰宅部のメンバーが「ナイスシュート」と小さな声を出していた。

自軍のゴールに戻りながら、クガオミトが一瞬、私を見た。

私は拍手をして、クガオミトのゴールを讃えてみせたが、クガオミトは見下すような視線を私に向けたように見えた。

点を決めたぐらいで調子にのるなよ、クガオミト。

私は瞬間的に憤まん遣る方無い気分になった。

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