第8話

文字数 608文字

暑過ぎず、寒過ぎず。

年間で一番心地よい初夏の気候の下、屋外でスポーツに勤しむ。

両チームの試合前のウォーミング・アップを兼ねたパス回しを見ながら、ハンドボールとはつくづく妙なスポーツだと私は思った。

そういえば、クガオミト本人にも面と向かって、そのような感想を言ったことがあった。

「何を言うんだ、九郎氏。ヨーロッパに起源を持つこのスポーツを学校体育の種目にしようと働きかけをしたのは、ラジオ体操の考案者の一人でもある、あの大谷武一先生だぞ」

私はその大谷某(なにがし)先生のことは存じあげていなかった。

クガオミトによれば、その大谷某先生は、我々がドッヂボールと呼んでいる球技の名づけ親でもあり、他のいくつかの球技の紹介や普及にも努め、学校体育に尽力したという。

「話を逸らすなよ、クガオミト。その大谷某先生の功績と、サッカーとバスケットボールを足して、二で割ったようなハンドボールというスポーツ自体のあいまいさは関係ないだろう」

「ふむ。九郎氏、君は最近かわいげというものがないね」

手の打ちを見透かされたクガオミトは忌々し気に言っていた。

しかし、私の感想がどうであれ、ハンドボールを彼自身が部活としてやっていく意味を見出したのだ。

外野がとやかく言おうがクガオミト自身は意に介した様子はなかった。

そのようなことを思い出したりしていると、ピッという短い笛の鳴がなり、「整列」という主審の声がハンドボールコートに響いた。

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