第3話

文字数 1,193文字

クガ(姓)でもオミト(名)でも好きに呼びたまえと言われた私は、語呂が気に入り、彼のことをクガオミトとフルネームで呼ぶことにした。

クガオミトは後日、私が左利きであることを見抜いた本当のタネ明かしをした。

「ボクがハンドボールコートで練習しているときに見かけたのだよ、君を」

ソフトテニスコートとハンドボールコートは、屋外プールを真ん中に置き、対角に存在していた。

クガオミトは、そのとき左手にラケットを握り、コートに立つ私の姿を目にしていたことを明かした。

「そうなのか。しかし、妙だな、ボクは一年の頃からハンドボール部の連中とも挨拶ぐらいは交わす仲だが、君を見かけた記憶がなかった」

「それはそうさ。ボクは二年になった今年から入部したのだから」

「ほう。それはまたどうして?」

クガオミトは質問が何かわかりかねるといって表情をした。

「一年から入部せず、なぜ、わざわざ二年になってハンドボール部に入部したんだい?、もしかして君は転校生なのか?」

クガオミトは笑みを浮かべた。

「クロウ氏。君の情報網もまだまだだな。ボクは君と同じ日に入学し、一年の初めの頃はバスケットボール部に在籍していたのだよ。もちろん、転校生じゃない」

確かにバスケットボール部員なら体育館で練習しているため、屋外コートで練習している私が把握していない同学年の部活生がいても不思議ではなかった。

「ハンドボール部の顧問がね、スカウトしてきたのだよ、僕を」

「守家(モリヤ)先生が?」

ハンドボール部の顧問は守家という三十代前半の体育大出身の体育教師だった。

「そうさ。ボクらは体育で目下ハンドボーを履修しているだろう?、体育の授業が終わって、守家先生がボクのそばに寄ってきてね、『残りの貴君の高校生活、私に預けてみないか?』と誘ってくださったのだよ」

「そうか」

私は少し複雑な気持ちになった。

なぜなら守家先生がクガオミトに声を掛けたのは、彼の運動神経を評価しただけではないと思ったからだった。

「ハンドボール部の二年生は今、君以外に二人しかいないだろ?」

「ああ、そうだ。それに一年生が七人だ」

「その、なんと言うべきか、君はなぜハンドボール部の二年生が、君以外に二人しかいないのか、理由を知っているのか?」

「さあ、興味がないから確かめてもいないね」

クガオミトは飄々と言った。

「そうか。ところで、君はなぜバスケ部を辞めたんだい?」

「そうだね、いろいろあったんだろうね」

クガオミトはまるで他人事のような口ぶりをして、それ以上は何も言わなかった。

「まあ、ボクから忠告(アドバイス)することがあるとするなら、守家先生には気をつけることだよ。気の良い兄貴然した雰囲気を体育の授業では醸し出されているが、部活のときは一変するらしいからね」

「そうかい。まあ、仮入部みたいなものだからね。合わなきゃ、辞めるだろうよ」

クガオミトはやはり他人事のように言った。
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