第21話
文字数 1,211文字
クガオミトがイライラしているのは、試合展開が思い通りにいってないからだということは想像に難くない。
しかし、そのイライラを私にぶつけられる筋合いはない。
モヤモヤしたわだかまりを抱えたこのまま、後半戦が始まり、またクガオミトの顔を見ると再び頭に血が上りそうな気がしたため、私はもう後半戦は見ないでこの場を立ち去ろうと考えた。
「クロウくん」
女性の声だった。
見れば同じクラスの芽在(メアリ)女史が居た。
やあ、と言って私は手を挙げて挨拶をした。
「本当に人気がないわね、うちのクラスのハンドボールチ-ムは」
芽在女史は私の傍(そば)まで来ると、辺りの様子を見ながらそう言った。
「確かに。でも、それならなぜ(君は)?」
「取材よ」
端的に彼女はそう言った。
そういえば彼女は新聞部に所属し定期的に校内新聞で記事を書いていると誰からか聞いたことがあった。
登下校のときにクラスメートのため挨拶ぐらいは交わすが、私と彼女は教室でもそれほど言葉を交わす間柄ではない。
「面白い記事になりそうかな?」
私はおそらくそうはならないだろうと思いながらも、間を埋めるために質問をした。
「前半をずっと見ていたわけじゃないけど、今のところ記事にするまでもないかな」
あくまで読者の関心が高いものを優先すべきだというのが、うちの部の方針だから、と芽在女史はつけ加えた。
観戦の人数を見れば、芽在女史の見解は正しいものだった。
しかし、と思った。
誰も興味がなかったものに注目させるというのも新聞部に属する記者の腕の見せどころではないだろうか。
「あえてこの試合を読者の興味をわくように記事にするとしたら、芽在さんなら見出しは何と書くのだろう?」
「まるで編集長みたいなことを言うのね」
芽在女史は苦笑いを浮かべた。
「でも、技量を試されるみたいで少し楽しいかも」
そう言うと芽在女史は口元に指をそえて思案していた。
「『送球 壱番戦 /八番目の戦士の不在』とか」
でも、文章がちょっと硬すぎるかな、と芽在女史は照れたように言葉を続けた。
「何かしらの自分の考えを表明するというのはとても勇気がいる行為だ。内容の正誤でなく、その姿勢に対して僕は畏敬の念を抱くね」
芽在女史にしてみれば、想像しなかった反応だったのか、僕の口から出た言葉に目が点になった。
それはクガオミトが事あるごとに言うセリフだったが、僕も同感だった。
もっともヤツがそれを言う場合、たいてい自分の発言に対する自己弁護であり、詭弁であった。
「クガくんみたいなことを言うのね」
今度は私が驚く番だった。
「クガとはよく話をするのかい?」
私が知る限り、クガが同じクラスの女子生徒と連絡事項以外で話をしている場面を見たことがなかった。
芽在女史は首を振った。
「ネタ探しをたえずやっているから、よく他人を観察しているの」
ということは、私も教室で観察されているのだろうか。
私は挙動不審な行動はなかったか、普段の教室での振る舞いを省みた。
(第22話へ)
しかし、そのイライラを私にぶつけられる筋合いはない。
モヤモヤしたわだかまりを抱えたこのまま、後半戦が始まり、またクガオミトの顔を見ると再び頭に血が上りそうな気がしたため、私はもう後半戦は見ないでこの場を立ち去ろうと考えた。
「クロウくん」
女性の声だった。
見れば同じクラスの芽在(メアリ)女史が居た。
やあ、と言って私は手を挙げて挨拶をした。
「本当に人気がないわね、うちのクラスのハンドボールチ-ムは」
芽在女史は私の傍(そば)まで来ると、辺りの様子を見ながらそう言った。
「確かに。でも、それならなぜ(君は)?」
「取材よ」
端的に彼女はそう言った。
そういえば彼女は新聞部に所属し定期的に校内新聞で記事を書いていると誰からか聞いたことがあった。
登下校のときにクラスメートのため挨拶ぐらいは交わすが、私と彼女は教室でもそれほど言葉を交わす間柄ではない。
「面白い記事になりそうかな?」
私はおそらくそうはならないだろうと思いながらも、間を埋めるために質問をした。
「前半をずっと見ていたわけじゃないけど、今のところ記事にするまでもないかな」
あくまで読者の関心が高いものを優先すべきだというのが、うちの部の方針だから、と芽在女史はつけ加えた。
観戦の人数を見れば、芽在女史の見解は正しいものだった。
しかし、と思った。
誰も興味がなかったものに注目させるというのも新聞部に属する記者の腕の見せどころではないだろうか。
「あえてこの試合を読者の興味をわくように記事にするとしたら、芽在さんなら見出しは何と書くのだろう?」
「まるで編集長みたいなことを言うのね」
芽在女史は苦笑いを浮かべた。
「でも、技量を試されるみたいで少し楽しいかも」
そう言うと芽在女史は口元に指をそえて思案していた。
「『送球 壱番戦 /八番目の戦士の不在』とか」
でも、文章がちょっと硬すぎるかな、と芽在女史は照れたように言葉を続けた。
「何かしらの自分の考えを表明するというのはとても勇気がいる行為だ。内容の正誤でなく、その姿勢に対して僕は畏敬の念を抱くね」
芽在女史にしてみれば、想像しなかった反応だったのか、僕の口から出た言葉に目が点になった。
それはクガオミトが事あるごとに言うセリフだったが、僕も同感だった。
もっともヤツがそれを言う場合、たいてい自分の発言に対する自己弁護であり、詭弁であった。
「クガくんみたいなことを言うのね」
今度は私が驚く番だった。
「クガとはよく話をするのかい?」
私が知る限り、クガが同じクラスの女子生徒と連絡事項以外で話をしている場面を見たことがなかった。
芽在女史は首を振った。
「ネタ探しをたえずやっているから、よく他人を観察しているの」
ということは、私も教室で観察されているのだろうか。
私は挙動不審な行動はなかったか、普段の教室での振る舞いを省みた。
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