第11話

文字数 775文字

しかし、弧科(コシナ)がマン·ツー·マンでディフェンスをするとなると、ゾーンで守るコートプレイヤーは自ずと五人で守ることを強いられる。
 
体育の授業で習った基本的なゾーンディフェンスでは、センターラインから相手ゴールマウスを見たとき、ゴールマウスを中心に真ん中に仮の線を引いたときに左側に三人、右側に三人を配置するようにして守ると教授された。

キーパーしか自由に動くことができないキーパーエリアとの境目である、半円で描かれるゴールエリアラインを背にして、左右を三人ずつ、計六人で、オフィス側からの攻撃を凌(しの)ぐのがオーソドックスなディフェンスの形だと。

六人で守るところを五人で守るのだ。

当然外野から見てもディフェンスの密度が薄いのは見て取れた。

ボールはソフトテニス部である私の、直接の先輩である丸先輩が保持していた。

ハンドボール部の長先輩がガチガチにマークされ、パスを長先輩に回せない以上、丸先輩ら残りの面々で攻めるしかない。

「面白い。長(オサ)、久我(クガ)は先輩に勝ちを譲る気などサラサラない様だぞ」

守屋先生は長先輩だけでなく、皆に聞こえるように言った。

ひょっとすると長先輩とクガオミトの経験や実力差に留意し、守屋先生はクガオミトの援護射撃をしているのかもしれないと思った。

「落ち着いていこう!、六対六が五対五になっただけだから」

守屋先生の発破に対し、うなづいただけで、長先輩が声を出して指示を出した。

私にはなぜだか長先輩の声には不安の色が滲(にじ)んでいるように感じられた。

そこには負けられない悲壮感のようなものさえ漂っているように思えた。

一方でクガオミトからは、相手チームをどのようにして料理してくれようかと様々な算段を練っているような楽し気な様子が見て取れた。

「とはいえ簡単にはいくまい」

気がつけば私はひとり言をこぼしていた。

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