第12話

文字数 971文字

「全員広がって!、サイドの二人はコートの隅まで広がって!」

長先輩は弧科(コシナ)のマン・ツー・マンマークを無理に振り切ろうとせず、センターライン付近から動かず、指示を出していた。

オフェンス側の左右のサイドポジションの二人が、ゴールラインとサイドラインの交差する角まで移動する。

相対するそれぞれのサイドのディフェンスが、マークする相手のポジションに合わせて角の隅に寄る。

すると正面のディフェンスの三人はさらに間隔が空いて、密度が薄くなる。

実質オフェンス三人対ディフェンス三人の様相となる。

丸先輩がバスケットのように自分でドリブルしながらゴールの方に進む。

丸先輩の前には、柔道部で重量級の鳥場(トバ)が両手を大きく掲げてシュートコースを防ぎながら、前進してくる丸先輩との距離を小走りで詰める。

風体のわりに速かった鳥場の動きに丸先輩は勢いを削がれ、目の間に迫った鳥場にボールを奪われないようにパスの出しどころを探す。

しかし、丸先輩のすぐ右隣りとすぐ左隣の味方プレイヤーには、相対するディフェンスが距離を詰めてきており、うかつにパスを出すとパスカットされてカウンターをくらいそうだった。

鳥羽の無駄にデカい表面積をかいくぐり、丸先輩はなんとかパスを出そうと、バスケットでいうところのピボットの動きで、軸足は動かさず、反対の足で方向転換を繰り返しながら、鳥場のマークを振り払おうと試みていた。

「丸(マル)、ダメだ!」

長先輩が声を出したのと同じくして、試合をさばいている守屋先生の笛がなった。

「オーバーステップ」

守屋先生は反則名を告げ、攻守がセットプレーから入れ替わるジェスチャーを示した。

バスケットボールでは軸足を動かさない間は、もう片方の足は何度でも動かせる。

しかし、ハンドボールではピボットのような動きは、軸足でない足が地面を踏むたびに「1歩、2歩、3歩」とカウントされてしまい、4歩目からは反則を取られてしまう。

ルールでは習ったが、小、中学校の体育の時間や休み時間に遊んだ、馴染みのあるバスケットボールの方の動きに身体が慣れてしまっているのは丸先輩だけでなく、私もそうだ。

「先輩、ドンマイです!」

敵チームとはいえ、丸先輩は部活の先輩である。

丸先輩に聞こえているかどうかは疑わしかったが、部活の試合の時と同様に私は丸先輩に声援を送った。

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