第5話

文字数 1,095文字

バスケットボール部の連中への聞き取りの結果を結局私はクガオミト自身に話すことにした。

「ご苦労なことだね」

クガオミトは皮肉めいた言い方をした。

「九郎氏、君がボクのことを詮索することを別に咎めているわけじゃないのだよ」

切り出されたクガオミトの言葉で私は出しゃばるべきではなかったと後悔した。

「我々は十代で、文字通り若輩者なのだから、己の好奇心に振り回されて行動してしまうことは仕方がない」

クガオミトはゆっくりと息を吐いた。

「しかしだね、それを相手にわざわざ伝えるのはまた別の話だ」

クガオミトは怒っていた。

その怒りはもっともだと思った。

本人は善意のつもりでも、相手にとっては余計なお世話。

極力干渉を避ける、クガオミトが一番嫌悪するものだった。

「悪かったよ。しかし、ボクはとても悔しかったんだよ。彼らはあまりに君を理解しなさ過ぎている」

クガオミトは先ほどよりさらに大きく息を吐いて、自分を落ち着かせるかのように首を振った。

「わかっているよ。君は想像力がやや足りないという欠点はあるが、基本的に誠実で良いヤツさ」

感情の揺れとは恐ろしいもので、想像力が足りないと言われて、最前まで味方のつもりでいたクガオミトの首をしめてやりたいと思った。

私の感情の振り幅に、人の機微に鈍感なクガオミトが感づいたとは思えなかったが、僕の顔を見て笑みを浮かべた。

「しかし、九郎氏。君のおかげで僕は俄然やる気が出てきたよ」

「なんのことだ?」

「全校球技大会さ」

「ああ、そのことか。では、委員長とは話をしたんだね?」

「ああ。ボクはハンドボールに出場するよ」

「そうか。しかし、やる気が出たというのは君の評判を誹(そし)る連中の鼻を明かしたいということだろう?、彼らが果たして2種目あるうちのソフトボールではなく、ハンドボールに出てくるだろうか?」

クガオミトはほほ笑みを浮かべた。

決してハンサムな男ではなかったが、彼のほほ笑みは人を惹きつける何かしらを内包していた。

「彼らより目立つ。それを主旨にすれば彼らがどちらの球技に出場しようがなんら問題はない。直接対決で鼻を明かすことができれば、それはさぞ痛快だろうが、それを実現させるためにはいくつもの企みが必要であり、かなり運に左右される」

「確かにね」

「自分の力が及ばいことに尽力しても望む結果が得られる可能性はかなり低いだろうからね。それに、勝負に買ったり、目立つ戦績を得たとして、鼻を明かしたと思うのは僕の勝手な思い込みさ。ボクの望む結果を得たとて、彼らが臍(ほぞ)を噛むとは限らないからね」

我が盟友であるクガオミトは本心はどうであれ、この件に関し、冷静な発言を努めた。(第6話へ)
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