第22話

文字数 1,057文字

私の考えを見透かしたように、芽在(メアリ)女史は言った。

「誤解しないで。クロウくんが眉間にシワを寄せるほど、特定の誰かをずっと観察しているわけではないから」

私はコホンと一つ咳ばらいをして、取り繕った。

「野暮を承知で聞くけど、さっきの言った、見出しの『八番目戦士』とは何だろう?」

「サッカーにおけるサポーター(応援する人)を十二番目の戦士という表現があるの。そこから。ハンドボールは一チーム七人だから」

「なるほど。そういうことか。しかし、新聞部といはいえスポーツのことをいろいろとよく知っているね」

「私、将来はスポーツ記者志望なの」

私は感心した。

同じ高校二年生で芽在女史はきちんと自分の将来を見据えているのだ。

「では、スポーツ記者見習いとして、クガオミトらの後半の展望はどうだろう?」

芽在女史は腕を組んで、右手をあごに当てた。

どうも芽在女史は思案するとき、あごに手を当てるくせがあると見える。

「ハンドボールでこんなにロースコアなのは非常に珍しいわ。三年のハンド部の先輩がとても遠慮しているように見える。だから、点が入らず、試合が間延びしてる」

「長先輩のことだね。本職(ハンド部)で三年(最高学年)だから、やり過ぎることがみっともないと感じているのじゃないかな」

「そうね。その長先輩が好き勝手にプレイさせないようにしているのは、うちのクラスの弧科(コシナ)くんのおかげね。彼の働きで長先輩は遠慮も相まって、とてもやりづらそう。そういう意味では彼は前半最大の功労者ね」

「ああ。でも、弧科はとても疲れているね」

「そう。弧科くんは疲れている。毎日ラグビーで走り込んでいる彼が。でも、部活を引退している長先輩も疲れている」

「クガくんの思惑通りね。クガくんはキーパーだったから、フィールド選手のようにコートを走り回る必要がなかった」

ヤツらしい戦略だと思った。

「クガくんは間違いなく後半はフィールドプレイヤーとして出てくるでしょうね」

私は相槌を打った。

「でも、彼はハンド部の直属の先輩を相手に回して勝てるほど優れたプレイヤーなの?」

私もその点に関しては疑問を持っていた。

長先輩のスタミナを削ることができたのだろうが、では、ヤツの実力のほどは。

「残念だけど、試合の時間だから行かないと」

芽在女史も自分が出場する試合があったのだ。

「後半も見ていくのでしょう?、内容を教えてね」

芽在女史はそう言い残して去っていった。

見るつもりが失せたクガオミトの後半戦だったが、私は芽在女史のこともあり、観戦しないわけにはいかなくなった。

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