第4話

文字数 844文字

 『人間はお互いがいちばん必要な時出会い、必要でなくなった時別れていく。それが人の世の宿命である』*出典下部参照

クガオミトは断定的な文章を愛す。

「古い映画をね、撮った監督の言葉だよ」

その文章をクガオミトが口にしたとき、それがクガオミト自身に向けられたものだったのか、それとも私に向けられたものだったのか、対話の文脈から考えてもそのときの私にはわかりかねた。

ただ、あまり自分の内面のことを語りたがらない彼のことをもう少し理解してみたいと私に行動させるための戦略だったとしたら、彼の戦略は功を奏した。

私はクガオミトがバスケットボールを途中退部した理由を知りたくなった。

部活自体が嫌になったのであれば、わざわざ二年生になって、同じ体育会系の部活に入部するはずがない。

何か彼なりの思うところがあったのは間違いがないように思えた。

私は同学年のバスケットボール部の連中の何人かに話を聞くことができた。

彼らが述べたことは、異口同音にクガオミトに対する冷ややかな感想だった。

頭が悪いクセに自分は他人と違っているような態度を示すことがある。

ことわりもなく勝手に独りで朝錬やら居残り練習をして協調性がない。

どこからか持ってきた、教訓じみたフレーズを勝手に披露して気持ち悪さを感じる。

私は彼のことを調べようとしたことを悔いた。

クガオミトには敵が多いのかもしれない。

彼の個性をバスケットボール部の連中は否定的に捉え、逆に私は面白いとさえ思っている。

ただ、クガオミトのことを悪く言う人間と私自身は仲良くできそうにはなかった。

クガオミトはバスケットボール部に自分の居場所を見つけることができなかったのかもしれない。

そう考えると、私はバスケットボール部の連中に対して、苛立たしささえ覚えた。(第5話へ)
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人間はお互いがいちばん必要な時出会い、必要でなくなった時別れていく。それが人の世の宿命である。「新トラック野郎風雲録」(鈴木則文)
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