第13話
文字数 1,380文字
各人が定位置につくと、守屋先生の笛で試合が再開された。
しかし、経験者のクガオミトがゴールキーパーのため、我がクラス側のコートプレーヤーに攻撃を組み立てられる人間がいなかった。
弧科(コシナ)や鳥場(トバ)や他のコートプレーヤーが回ってくるボールを隣の味方にパスするが、ボールが横に移動するだけで敵陣ゴールへと向かう縦の動きがない。
つまり。
見ていて、とても退屈だった。
攻め手に欠き、これでは百年経っても点は入らないなと思っていると、守屋先生が反則を示す笛を鳴らした。
「パッシブプレイ」
相手チームも我がクラスのチームの人間も何が起こったのかわかっていない様子だった。
「弧科(コシナ)氏、長先輩が狙ってる!、他のみんなも戻って!」
クガオミトが大きな声を出した。
反則をとられた位置に長先輩がつくと、長先輩がボールを掲げ、リスタートの笛が鳴った。
長先輩は一旦丸先輩にボールを渡し、すぐにボールを返すように丸先輩にボールを要求し、それを受け取ると、そのままドリブルをし、クガオミトがいるゴールに向かって走り出した。
先程の丸先輩のドリブルとは比べものにならない速さだった。
素人目にもこれはクガオミトにとって大ピンチだとわかった。
重量級揃いの我がクラスのプレーヤーたちが贅肉を揺らしながら戻るが、長先輩との距離は離れるばかり。
唯一ラグビー部の快速ウイングである弧科だけが長先輩との距離をつめていくが、おそらく長先輩がシュート体勢に入るまでには間に合わないだろうと思われた。
長先輩が後方から迫る弧科の位置を確認するために、一瞬前方のクガオミトのいるゴールの方から目を逸らした。
クガオミトはそれを見逃さなかった。
クガオミトは、一般的にシュートを打つ距離である、フリースローラインより内側に長先輩が進入するより手前の位置まで、ゴールキーパーにも関わらず猛然と出てきた。
ドリブルで疾走しながら、視線を前に戻した長先輩の前にクガオミトが迫り、長先輩は虚を突かれた様子を見せた。
長先輩がステップを踏んで、高くジャンプシュートの体勢に入る余裕は無さそうだった。
クガオミトは長先輩にぶつかって反則してでも止めようとしているのかと思うほど、速度を出していた。
そのとき。
状況を把握した長先輩は大きく横に一歩を踏み切り、クガオミトとの衝突を避けながら、振りかぶらずに手首のスナップをきかせて無人のゴールめがけて、ボールを上に放り凸状の放物線を描くシュートを放った。
読み負け。
クガオミト、万事休す。
そんな言葉が脳裏に浮かんだ刹那、クガオミトは運動靴を滑らせながら、急ブーレキをかけ、身体を反転させて、まだ宙を漂うボールをめざしてゴールに向かった。
誘っていたのか、クガオミト。
観戦している誰もが息をのんだ。
クガオミトはボールがゴールマウスに向かって落下し始めたのを確認すると、ボールに向かって手を伸ばしながらジャンプした。
どうだ?
私の観戦していた位置からでは、ちょうどごーるまうすに向かって、ジャンプするクガオミトの身体の陰になり、ボールに触れたかどうか判別が遅れた。
私が視認するよりも先に「ああ~」という、ため息が聞こえ、クガオミトは間に合ったのだとわかった。
クガオミトがかろうじて触れたボールはコートを転がり、サイドラインを割った。
私は大きく息を吐き、知らずに入っていた肩の力を抜いた。
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しかし、経験者のクガオミトがゴールキーパーのため、我がクラス側のコートプレーヤーに攻撃を組み立てられる人間がいなかった。
弧科(コシナ)や鳥場(トバ)や他のコートプレーヤーが回ってくるボールを隣の味方にパスするが、ボールが横に移動するだけで敵陣ゴールへと向かう縦の動きがない。
つまり。
見ていて、とても退屈だった。
攻め手に欠き、これでは百年経っても点は入らないなと思っていると、守屋先生が反則を示す笛を鳴らした。
「パッシブプレイ」
相手チームも我がクラスのチームの人間も何が起こったのかわかっていない様子だった。
「弧科(コシナ)氏、長先輩が狙ってる!、他のみんなも戻って!」
クガオミトが大きな声を出した。
反則をとられた位置に長先輩がつくと、長先輩がボールを掲げ、リスタートの笛が鳴った。
長先輩は一旦丸先輩にボールを渡し、すぐにボールを返すように丸先輩にボールを要求し、それを受け取ると、そのままドリブルをし、クガオミトがいるゴールに向かって走り出した。
先程の丸先輩のドリブルとは比べものにならない速さだった。
素人目にもこれはクガオミトにとって大ピンチだとわかった。
重量級揃いの我がクラスのプレーヤーたちが贅肉を揺らしながら戻るが、長先輩との距離は離れるばかり。
唯一ラグビー部の快速ウイングである弧科だけが長先輩との距離をつめていくが、おそらく長先輩がシュート体勢に入るまでには間に合わないだろうと思われた。
長先輩が後方から迫る弧科の位置を確認するために、一瞬前方のクガオミトのいるゴールの方から目を逸らした。
クガオミトはそれを見逃さなかった。
クガオミトは、一般的にシュートを打つ距離である、フリースローラインより内側に長先輩が進入するより手前の位置まで、ゴールキーパーにも関わらず猛然と出てきた。
ドリブルで疾走しながら、視線を前に戻した長先輩の前にクガオミトが迫り、長先輩は虚を突かれた様子を見せた。
長先輩がステップを踏んで、高くジャンプシュートの体勢に入る余裕は無さそうだった。
クガオミトは長先輩にぶつかって反則してでも止めようとしているのかと思うほど、速度を出していた。
そのとき。
状況を把握した長先輩は大きく横に一歩を踏み切り、クガオミトとの衝突を避けながら、振りかぶらずに手首のスナップをきかせて無人のゴールめがけて、ボールを上に放り凸状の放物線を描くシュートを放った。
読み負け。
クガオミト、万事休す。
そんな言葉が脳裏に浮かんだ刹那、クガオミトは運動靴を滑らせながら、急ブーレキをかけ、身体を反転させて、まだ宙を漂うボールをめざしてゴールに向かった。
誘っていたのか、クガオミト。
観戦している誰もが息をのんだ。
クガオミトはボールがゴールマウスに向かって落下し始めたのを確認すると、ボールに向かって手を伸ばしながらジャンプした。
どうだ?
私の観戦していた位置からでは、ちょうどごーるまうすに向かって、ジャンプするクガオミトの身体の陰になり、ボールに触れたかどうか判別が遅れた。
私が視認するよりも先に「ああ~」という、ため息が聞こえ、クガオミトは間に合ったのだとわかった。
クガオミトがかろうじて触れたボールはコートを転がり、サイドラインを割った。
私は大きく息を吐き、知らずに入っていた肩の力を抜いた。
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