第4話 夢と現実の狭間で
文字数 920文字
抱きしめられていた胸の中で小さく呟いた私を彼は慌てて解放した。
耳まで赤くなり、うつむきながら頭をかいている姿が今までの姿とのギャップを感じ、思わず吹き出してしまった。
差し出された名刺には、
SLSG研究所 所長
内科・精神科 医師
近藤・ミラー・正嗣
と書かれていた。
彼はそういうと、駅の方へ向かって歩き出した。
私は金網越しに高速を走る車を遠目で見て、彼を追いかけるようにゆっくりと歩き出した。
駅の近くにある喫茶店に入り、仕事の事、生い立ち、これまでの事を話した。
大学を卒業してから、こんなに話をしたことがあっただろうか?
これまでの自分を吐き出していくうちに、少しずつ心が軽くなる気がした。
彼はホットコーヒーが完全に冷たくなるまで、ただただ聞いてくれた。
うつむきながら冷めてしまったコーヒーを見つめていた。
彼がしゃべり終えるのを待たずに私は答えた。
彼は2、3回頷いたあと、にっこりと微笑んだ。
それから私たちは駅近くのコインパーキングに止めてあった彼の黒いレクサスに乗り、私のアパートに寄って1週間分の着替えが詰まったキャリーケースを乗せ、山梨へと向かった。
私はこれまでの睡眠を取り戻すかのように深い眠りへと落ちていった。
………私だ
…あぁ、大丈夫だ。
彼女はちゃんとここにいる
…あぁ
…もう1時間おそければ、また彼女を失うところだった
…ありがとう。
君のおかげだ
夢なのか現実なのか分からない…どこか遠くで低く心地いい声が聞こえた気がした。