第16話_② 大切な人
文字数 1,112文字
『第16話_① 大切な人』 の続き
甘い記憶が蘇るのと同時に、思いっきり頭を振ってあの頃の『画』をあたまから追い出す。
私を覆うようにして、壁についていた保の手の間から、しゃがみ込んで脱出した。
動揺している自分の気持ちを紛らわすため、タブレットへと視線を落とす。
タブレットから保へ視線を戻すと、保は窓の外を見ていた。
一瞬、保の声が聞こえたように思えた。
保は外を見たまま動かなかった。
私は保に近づき、保の肩を揺すった。
そういうと、いつもの保の表情に戻っていた。
端末を持ち、部屋を出ようとすると後ろから声をかけられた。
一瞬だけ、部屋の空気が止まった気がした。
そう言って、高らかに笑う保もあの頃の保のままだった。
あの日、研修先から保の待つアパートへ予定よりかなり早く帰宅した。
いつもより早い帰宅に、心躍らせながら玄関の鍵を開けると……
そこには、見慣れない女のハイヒールと廊下から寝室にかけて、点々と落ちている2人分の洋服や下着…。
落ちている洋服を拾い集め、勢いよく寝室の扉を開けると裸で横たわる2人に投げつけて、言い放った。
『出てって!』
『…この部屋から出ていけ!!』
それが私達2人の最後だった…。
昔の話を思い出し恥ずかしくなった私は下を向いた。
下唇がピリッと痛む。
そう言って、私は保のニヤけ顔に舌を出し、特別室の扉をわざと大袈裟に閉めた。