第26話 It's a small world
文字数 1,029文字
そう言って、手にしていた注射器の指紋をふきとり、鏡子先生の右手に持たせた。
以前、彼女に書いてもらったメモ紙をテーブルの上におく。
私も後から行くわ
紛れもない鏡子先生の筆跡。
あのとき、ミラー先生に渡すように頼まれたメモ紙がこんな所で生きてくるとは思わなかった。
私は鼻歌を歌いながら、持ってきた3つのティーカップをトレーにのせる。
鏡子先生の部屋を出ると、電話を終えた咲枝さんが部屋に戻ってくるときだった。
咲枝さんと一緒に台所に戻り、私はティーカップを綺麗に洗った。
咲枝さんも私もリビングを出て、自分の部屋へと戻った。
自室に戻る途中、私はウッドデッキにでた。
月明かりの全くない、風が少し寒いくらいの夜だった。
鳴り響く虫の音に耳を澄ませ、湖を眺める。
ふとロッキングチェアの横にあるサイドテーブルに、ミラー先生が吸っていた煙草が置かれている事に気づいた。
ゆっくりとロッキングチェアに腰掛け、先生が使っていたZippoで火をつけ、口に加えた煙草をゆったりと吸いこむ。
ズボンの後ろポケットから封筒に入った手紙を取り出した。
封筒の表書きには『マサへ』と書かれている。
封筒の中から、便箋を取り出し、紗奈さんの最後の手紙を読む。
……
…………。
紗那より
P.S. 鏡子ちゃんはきっとあなたを助けてくれるわ。2人で幸せになってね。
ロッキングチェアの横にある灰皿の上に手紙をのせた私は、煙草を口に加えたまま、ライターでそのまま手紙に火をつける。
シャンとライターの金属蓋が閉じる音が響き、紙の燃える音が静かに響いた。
口に加えていた煙草を手に持ち替え、天に向かって、ゆっくり煙を吐き出す。
もう一度煙を吸い込み、ゆったりと吐きながら目を閉じる。
手に持つ煙草を空に向かって掲げ、燃えゆく炎をみた。