第13話 湖の畔で
文字数 1,951文字
僕はエントランスに止めた車に荷物を置いたまま、湖へと向かった。
湖の畔にあるベンチに座っていた紗奈はお腹に手を当てながら、鼻歌を歌っていた。
最後のフレーズに合わせて僕も紗奈と一緒に歌うと、満面の笑みで振り向き手を振った。
お腹に手を当てながら、話しかけている紗奈の背後に立ち、後から抱きしめるように紗奈の手の上に自分の手を置いた。
後から抱きしめている紗奈の肩が小刻みに震えていた。
そう言って、笑顔で僕の方を振り返ると紗奈は僕の胸の中に顔を埋めた。
そう言って、僕の顔を見上げた紗奈の涙を拭い、唇に軽くキスをした。
二人で手をつなぎ、鳥のさえずりが響き渡る湖の畔を歩いた。
つわりの酷かった紗奈は料理の匂いが辛いらしくキッチンに立つことが難しいようだった。
僕と咲枝さんはキッチンで夕食を準備しながら、紗奈はリビングの暖炉の前にあるロッキングチェアに座り、フランスでの出来事を話し、穏やかな時を過ごした。
天井を見上げた紗奈は、両手で顔を覆う。
そう言うと、咲枝さんは紗奈に向かってウインクをした。
そう言うと、紗奈は涙目のまま咲枝さんに抱きついた。
抱きついたまま、体をゆっくり大きく揺らした。まるで本物の母と娘がハグしているかのような光景に自然と温かい笑みがこぼれた。