第24話 9年前のあの日…
文字数 2,199文字
体が重い、頭が重い……。
意識が混濁していく中で、信江さんの声が聞こえる。
私が中学3年のとき、突然、5時限目の数学の授業中に校長先生から廊下に呼び出された。
いつも全校集会でつまらない正論を話す校長先生は、どこか遠くの生き物だと思っていた。そんな校長先生が、深刻な顔をして隣で運転をしている。
なんだか可笑しくなって、不意に笑ってしまった。
無言の車内に、今流行りのJポップや洋楽が流れていた。
一緒に来た校長先生も電話をするといって、頻繁に部屋の外に出たり、入ったりを繰り返しながら一緒に待ってくれていた。
2時間くらい待っただろうか、スクラブ姿の医者が部屋に入ってきた。
話を聞いたあと、医者に連れられてどこかの部屋に行き、布をかけられた父の顔をみたあと、いろいろな管が繋がっている母に会った。
容態の急変を考えて、今夜はここにいるようにとの指示で家族控室を案内された。
校長先生は用事があるため、一旦家に帰ることになった。
「また明日くるね」と言って、夕飯代2000円をおいていってくれた。
でも、病院で待つ時間はいつも以上に長く感じた。
通学鞄の中から紙と筆記用具を取り出して、絵を描く。
描いている時間だけは『無』になれて、時間を忘れて、ただただ夢中で描いていた。
ふとノートから時計に目を移すと夜の8時半を指していた。
お茶とおにぎりとチョコレートを買って、ロビーの椅子に座って食べているときだった。
鏡子先生のことを何一つしらない私は、ただただ、怖い女性にしかみえなかった。
母のいる部屋に慌ただしく人が出入りしている。
人が出入りするのと同時に、ドラマでよく聞くようなアラーム音が鳴り響いていた。
「お母さんいま頑張ってるからね」
そう言って、その看護士さんが部屋に入っていく瞬間に見えた。
母の上に股がり心臓マッサージをしている鏡子先生を……。
そう思っただけで、手が震えた。
震える手を止めるかのように両手を組んで祈った。
それから少したって、人の出入りが落ち着いてきた。
私は母が落ちついたんだと安心し、トイレへとむかった。
それは、私がトイレの個室に入っているときだった。
『ドンッ!』
という大きな音とともに女子トイレの扉が盛大な音をたてて開かれた。
聞き覚えのある声に驚き、私はあわてて手で口を押さえた。
私はただただ、声を殺して泣くことしかできなかった。