第15話 遺された者
文字数 2,140文字
私がラボにきて、2ヶ月の時が過ぎた。
親ガモの後をちょこちょこついてまわっていた子ガモたちもすっかり巣立ち、この湖に残っているのは3羽だけになってしまっていた。
天気の良い日はここに座ってよく本を読んでいる。
今日は雲ひとつない快晴。
あまりの気持ちよさに、鼻歌まで歌ってしまう。
ミラー先生は私が座っている隣に腰掛けた。
ミラー先生は顎の先で私達が座っている正面を指した。
ミラー先生は煙草に火をつけてゆっくりと吸い、空に向かって大きく息をはいた。
空を見上げながら、ゆっくりと煙草をふかしているミラー先生を見つめた。
煙草を地面に押しつけ火を消しながら、そのまま下を向き、手に持ったままの吸い殻をミラー先生は見つめていた。
すぐ隣に座っているはずのミラー先生がなぜだか遠くにいるような感覚になる。
いつもの先生とは違う表情を見て、なんだか急に不安になってしまった。
ミラー先生は私の方を見て少しだけ微笑んでくれた。
そのまま、持っていた吸い殻を携帯灰皿に入れ、ポケットにしまい青い空を見上げた。
私は黙ったまま、聴くことしかできなかった。
ミラー先生は空を見上げたまま、話を続ける。
空を見上げるような姿勢をしていたミラー先生はいつの間にか青い空が綺麗に映る、穏やかな湖面を見つめていた。
水面に映る太陽の光が悔しいほど煌めいていた。
そう言って、私の方を見たミラー先生はいつも通りの笑顔に戻っていた。
ミラー先生は驚いた表情で口元に手をおいた。
先生はベンチに置いてある本を指差した。
歌詞の紙を差し出すと震える手でミラー先生は紙を受け取った。
ミラー先生は紗奈さんの書いた字を震える指先でゆっくりとなぞっていた。
遠くで鳥たちが囀っている。
ゆっくりと静かな時間が流れていった。
先生は優しい笑みを口元に浮かべ、大事そうに折り畳み、ポケットに閉まった
ミラー先生はジャケットの内ポケットから、一枚の写真を取り出した。
そこには、笑顔で笑うミラー先生と鏡子先生。
そして、最高の笑顔でミラー先生に抱きついている私にそっくりの紗奈さんが写っていた。