第23話 今この瞬間を…
文字数 1,267文字
信江さんがキッチンへ向かったあと、咲枝さんと二人きりになった部屋で私はつぶやく。
そう言って、温かい手で優しく私の手を撫でてくれた。
そういうとニッコリと微笑んでくれた。
咲枝さんの優しさにまた涙が溢れる。
ただ手を撫でながら、何も言わず、傍に寄り添ってくれている咲枝さんがありがたかった。
夏の終わりに、秋の虫たちが部屋の外で、鳴いているのが聞こえた。
『コンコン』
ノックの音が聞こえ、信江さんが入ってくる。
そういって、信江さんはニッコリ笑って、私の方を見た。
そう言いながら、私と咲枝さんにティーカップを渡し、自分の分はベッドサイドのテーブルに置いた。
温かなカップを握りしめるようにして飲む。
自分の喉元を甘い液体がゆっくり通っていくのを感じた。
そう言って、信江さんもティーカップを手に取る。
リビングからラボの固定電話が鳴っている音が聞こえる。
そういうと、咲枝さんはリビングへとむかった。
時計の秒針の音が静かに聞こえてくる。
そう言って、信江さんの方へ顔をあげる。
そう言って、ティーカップのハーブティーを飲む。
手の中にあるカップを手のひら全体を温めるようにして持つ。
中に残っているハーブティーをカップの中でゆっくりと回した。
カモミールの優しい香りが漂ってくる。
心地いい秒針のリズムを聴いていると、得たいの知れない強烈な睡魔が襲ってきた。
私はベッドに腰掛けた姿勢のまま、顔を両手で覆う。
そう言って、ベッドの中へ入った。
ベッドの近くに歩みよってきた信江さんは、私へ毛布をかけてくれた。
普段とは違う、体がベッドに沈み込んでいくかのような感覚におちいる。
信江さんの今まで見たことのない、怒りに満ちた顔を、今にも落ちてしまいそうな意識の中で見た。