第14話 最後の夜
文字数 1,292文字
母娘のようなハグの後、夕食の片付けや風呂を終え、自室のベッドで2人で横になっていた。
僕は紗奈の額に頭をくっつけ、紗奈のお腹に手を当てながら続ける。
紗奈は再び両手で顔を覆った。
紗奈は僕の胸に再び顔を埋めた。
紗奈は泣きながら、何度もそう繰り返した。
心音が鳴り出して間もない、まだ耳が聞こえるはずのない我が子に向けて話しかけながら、声をあげて泣く紗奈をしっかりと抱き、背中をトントンと一定のリズムで優しく叩いた。
今考えると、この時すでに紗奈の中では『死』を決意していたんだと思う…。
あの夜、紗奈は隣で涙を流しながら静かに寝息を立てていた。
温かい頬をこぼれ落ちる涙を拭い、優しく口づけたあと額をくっつけたまま僕も2日ぶりの深い眠りについた。
翌朝、隣で寝息を立てていたはずの紗奈は湖の畔で冷たくなっていた。
止まってしまった心臓を死に物狂いでマッサージしたところで、彼女の鼓動が再び鳴り出す事は無かった。
入水自殺だった。
…ありがとう…マサ。
紗奈の最後の言葉を思い出すたび、そして夢で彼女に出会うたびに考えてしまう。