第3話 初めて
文字数 1,289文字
黒縁眼鏡の男性は胸ポケットから取り、トントンと縁を叩いて1本出し私へ差し出した…
私は1本だけ取り、初めて手にした『煙草』をマジマジと見つめた。
彼は長くキレイな指でカシャンと金属の音をさせながら蓋を開け、ライターに火をつけた。
炎に近づけるとシュッという音と共に煙が漂う。
映画やテレビで見るように、それを口に加えた。
初めての煙草は全然美味しくなかった。
盛大に咽せてしまった私は、煙草を顔から遠ざけ新鮮な空気を欲して思いっきり深呼吸をした。
彼はゆったりと自分の煙草をふかしながら夜空を見上げている。
手に持つ煙草を空に向かって掲げ、燃えゆく炎をみた。
男性は空を見上げながら何も言わずに煙草をふかし続けている。
燃え尽きそうな煙草を空に掲げていると彼はサッと携帯式の灰皿を取り出し、私に入れるように促した。
彼は煙草の火を消して、空を見上げている。
♪There is just one moon and one golden sun.
And a smile means friendship to everyone.
Though the mountains divide and the oceans are wide.
It’s a small world after all .
彼はそう言うと、手すりの上に立ち続けている私に手を差し出した。
彼の伸ばした綺麗な手を見つめた後、もう一度振り返り、橋の下を走る車たちを金網越しに見た。
大きなトラックが下の高速を走る。
彼の差し出す手をマジマジと見つめた。
長くしなやかな指が小さく震えている。
彼の顔へ視線を向けると、彼は小さく頷いた。
落ち着いた態度とは裏腹の震える手…
この人は何者?
なぜ、見ず知らずの私を止める?
そして、
彼の差し出す手はどうして震えているの…
小さな疑問が次々に湧いてきた。
自分の手をゆっくりと上げ彼の手へ近づけると、温かい彼の手が私の手をしっかりと支えた。
そして、彼はスッと抱き抱えるように私を手すりから下ろした。
気づけば、そのまま彼の胸に抱きしめられていた。
スーツ越しに伝わる彼の鼓動は、やけに速く感じられた。