第11話 誓い

文字数 1,619文字

紗奈が大学を卒業したその日、僕たちは区役所に婚姻届を提出した。



富樫紗奈から、近藤紗奈に苗字が変わって迎えた2回目の週末、僕たちは咲枝さんの元民宿に来ていた。




紗奈の親族、そして僕の家族、お互いの友人達を招いて、ささやかな結婚披露パーティーを開いたのだ。

白いウエディングドレスに身を包み、いつも以上に輝く笑顔で隣に座る紗奈を見て、『僕は世界で一番幸せ者だ』と本気で思った。




おめでとう!

お幸せに!

今日一日だけで数えきれないほど、この言葉を聞いた。


そして、その言葉を聞くたびに、横に座る紗奈のこの笑顔を永遠に守ると自分の心に誓った。




あぁ~疲れた
シャワーを浴びたあと、ベットに倒れ込むように寝そべった紗奈の横に僕も横たわる。
確かに、疲れたな~
そう言いながら、肘枕をして横に寝ている紗奈の頭をなでた。
でも、楽しかったな。

楽しい時間をありがとうな

ほんとだね~楽しかったね。

こちらこそ、ありがとう

紗奈の温かい手が僕の頬を撫でた。
紗奈…
ん?
これから紗奈は海外を行ったり来たり、僕は臨床実習で忙しくなる
そうだね…
すれ違いの日々が続くけど、極力時間合わせて、こうして顔あわせていこうな
うん
会えないからって浮気しないでよ~
紗奈の温かい手が僕の頬を優しく摘む。
浮気する暇あったら、寝ると思うぞ~
確かに…この前の実習も大変そうだったものね
これからあの日々が続くのかと思うと、ゲンナリするな…
下を向く僕の頭を紗奈は優しく撫でる。
体だけは気をつけてね
あぁ。

紗奈の方こそ、海外で変な男に絡まれるなよ

ええぇ!?

それは無理かな〜?

だって、マサよりカッコイイ人がいたら、私くっついていっちゃうかも…

紗奈~?
エヘッ…ウソだよ、ウソ!

マサよりかっこいい人なんてこの世にいないもん!

私にはマサしかいないから…
そう言いながら、優しい笑顔で僕の頬を両手で包んだ。
紗奈のその笑顔、僕が死ぬまで守ってみせる
愛してる、紗奈

ウエディングドレスとは対照的な真紅の口紅をしていた昼間の紗奈とは違って、口紅を落としたいつも通りの紗奈の唇へ二人っきりの誓いのキスをした。

私も……


アイシテル、マサ…

そういって、頬を赤らめる紗奈がとても愛おしかった。


胸元へ強く抱き寄せると、いつも使っているクリームの香りがフワッと香った。

その瞬間、この胸の中にいる紗奈を今だけは自分のものにしたいという衝動にかられた。

赤くなった耳を隠すように緩やかなカーブを描く長い髪を肩の後へと流すと、ドレスのときに見えていた白く細いうなじが見える。


僕はそのうなじを柔らかく、指でなぞったあと、紗奈の頭をしっかりと支え、甘く柔らかい紗奈の唇を激しく奪った。

二人で幾度となく果て、お互い疲れ果てて深い眠りに落ちたあと、僕は鳥のさえずりで目が覚めた。


昨夜のあの温もりを求めて、隣に眠る温かい人肌を探したが既にそこには紗奈の姿はなかった。

紗奈?
部屋を見渡しても、彼女の姿は何処にもなかった。
紗奈!
ここよ
僕はあわててガウンをはおり、紗奈の声がするウッドデッキへと出た。


紗奈は朝日を浴びながら、ロッキングチェアに揺られ、本を読んでいた。

おはよ、マサ
読みかけの本に栞をはさみ、ゆっくりと閉じるとサイドテーブルへ本を置き、僕の方を見上げた。


朝日があたる紗奈は、舞台上でスポットライトを浴びているかのようだった。

マサもコーヒー飲む?

入れて来るね

そう言って立ち上がろうとする紗奈の前にたちふざがり、そのままもう一度ゆっくりと座らせると、ロッキングチェアへかがみ込むような体勢で彼女の甘い唇を僕の唇で優しく塞ぐ。
スポットライトを浴びた上目遣いは反則だ!
えっ!?
そんな姿、絶対他の男に見せないでくれよ!
ちょっと…なに?

何のはなし…っ……

ロッキングチェアが揺れないように、しっかり足で押さえながら今度は激しく紗奈の唇を奪った。
ちょっと…ここ外なんだから…
じゃあ、続きは中でだな…
キャッ…
ロッキングチェアに座っていた彼女を抱きかかえ、僕らは再びベッドへと戻った。
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登場人物紹介

加藤 信江

会社員

ミラー

SLSG研究所 所長

内科・精神科 医師

芳賀 鏡子

医師

ミラーの助手

吉川 咲枝

研究所家政婦

近藤 紗奈(旧姓 富樫)

沖田 保

俳優

警官

ミラーの母親

医師

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