第11話 誓い
文字数 1,619文字
紗奈が大学を卒業したその日、僕たちは区役所に婚姻届を提出した。
富樫紗奈から、近藤紗奈に苗字が変わって迎えた2回目の週末、僕たちは咲枝さんの元民宿に来ていた。
紗奈の親族、そして僕の家族、お互いの友人達を招いて、ささやかな結婚披露パーティーを開いたのだ。
白いウエディングドレスに身を包み、いつも以上に輝く笑顔で隣に座る紗奈を見て、『僕は世界で一番幸せ者だ』と本気で思った。
おめでとう!
今日一日だけで数えきれないほど、この言葉を聞いた。
そして、その言葉を聞くたびに、横に座る紗奈のこの笑顔を永遠に守ると自分の心に誓った。
ウエディングドレスとは対照的な真紅の口紅をしていた昼間の紗奈とは違って、口紅を落としたいつも通りの紗奈の唇へ二人っきりの誓いのキスをした。
その瞬間、この胸の中にいる紗奈を今だけは自分のものにしたいという衝動にかられた。
赤くなった耳を隠すように緩やかなカーブを描く長い髪を肩の後へと流すと、ドレスのときに見えていた白く細いうなじが見える。
僕はそのうなじを柔らかく、指でなぞったあと、紗奈の頭をしっかりと支え、甘く柔らかい紗奈の唇を激しく奪った。
昨夜のあの温もりを求めて、隣に眠る温かい人肌を探したが既にそこには紗奈の姿はなかった。
紗奈は朝日を浴びながら、ロッキングチェアに揺られ、本を読んでいた。
朝日があたる紗奈は、舞台上でスポットライトを浴びているかのようだった。