第10話 山梨の故郷
文字数 1,554文字
毎年、春休みと夏休みに映画サークルの合宿で私たちの民宿に来ていたあの子たちは、合宿以外でもたびたび訪れるようになった。
そう言うと、紗奈ちゃんは私の所に走ってきてハグをした。
去年の夏は正嗣くんと紗奈ちゃん。
鏡子ちゃんと保くんのペアで3日間ほど滞在していた。
そう言うと、紗奈ちゃんは再び私に抱きついてきた。
主人が亡くなって半年。
誰かと話すことも、自分以外の体温を感じることも久しぶりだった。
胸に抱きついている紗奈ちゃんの背中を優しく撫でながら、誰かと接することがこんなにも穏やか気持ちになれるのかと自分でも驚いていた。
紗奈ちゃんは正嗣くんに抱きつき、左手の薬指の指輪を見せてくれた。
1人でいる時間とは違う、穏やかな時が流れる。
子供のいない私たちにとって、大学生活の合間に訪れるこの子たちが自分の子供のように感じていた。