第10話 山梨の故郷

文字数 1,554文字

毎年、春休みと夏休みに映画サークルの合宿で私たちの民宿に来ていたあの子たちは、合宿以外でもたびたび訪れるようになった。
咲枝さん!

ただいま〜

おかえり!
そう言うと、紗奈ちゃんは私の所に走ってきてハグをした。
まぁまぁ!

もう、紗奈!

何度も言ってるだろ?

ここは海外じゃないんだから、そんな挨拶したら、日本人は普通驚くんだから…


いいじゃない?

日本人だって、もっとハグするべきよ

ハグが自然とできる紗奈さんが羨ましい…私なんて、恥ずかしくて絶対にできないから…
ほら…それが普通の日本人の感覚だろ
あら!?

保(たもつ)くんは…?

去年の夏は正嗣くんと紗奈ちゃん。

鏡子ちゃんと保くんのペアで3日間ほど滞在していた。

わぁ〜あぁぁ〜〜〜
えっ!?
(耳元でささやく)咲枝さんその名前、今回は禁句で…
もう〜紗奈さん…

聞こえてますよ!

私たち別れたんです
あら…
今回の旅行、半分は私の失恋を慰めるため・・・

ですよね…紗奈さん!?

バレてたか…
ははは〜紗奈は分かりやすいもんな…
フフフ〜

そうですね…

大丈夫よ!

鏡子ちゃん美人さんだから、またすぐにいい人見つかるわよ!

そうそう〜美味しいものたくさん食べて、たくさん笑って忘れちゃおう!

ってことで、咲枝さん2日間よろしくお願いします

ええ。

私もあなた達がくるの楽しみにしていたのよ!

ゆっくりしていってね

ありがとうございます
私もすっごく楽しみだった〜

ねぇ〜マサ!?

もう、家でもず〜っと、

早く行きたい!

早く行きたい!

って、うるさかったもんな!

だって、この湖大好きなんだもん!

なんか、ほんと落ち着く。

ありがとう

主人が亡くなって半年。

民宿は辞めちゃったけど、あなた達の第2の故郷だと思って、いつでもいらっしゃい!

山梨のおか〜あさん
そう言うと、紗奈ちゃんは再び私に抱きついてきた。
あらあら!
だから、すぐに抱きつくのやめろって…
フフフ〜

主人が亡くなって半年。

誰かと話すことも、自分以外の体温を感じることも久しぶりだった。


胸に抱きついている紗奈ちゃんの背中を優しく撫でながら、誰かと接することがこんなにも穏やか気持ちになれるのかと自分でも驚いていた。

そうそう…はい、これ!

咲枝さんへのお土産。

フランスの美味しいワイン!

あら、また行ってたの?
今回は教授を含めた、派遣チームの専属通訳として行ってたの
忙しいのね?
フランス語、英語、日本語の3カ国語、操れるなんて重宝されますよね
いやいや、私が楽しんでやってるだけ!
卒業後もこのまま派遣チームの一員だし、あとは卒論仕上げて終わりだな!
卒論も、ほぼほぼ終わってるしね!

ほら〜私、日頃の行いがいいからさぁ…

自分で言うか?
だって、マサが言ってくれないんだもん!
ふふふ〜

相変わらず、二人は仲良しね…

実は…
紗奈ちゃんは正嗣くんに抱きつき、左手の薬指の指輪を見せてくれた。
私の卒業と同時に入籍することにしました
まぁ!
もう〜芳賀の癒し旅行に来たんじゃなかったのか?
だって、山梨のお母さんに報告しなきゃと思って…
そうですよ〜。

私のことは気にしないでください。

それに、お二人の幸せなところ見てると、こっちまで幸せな気分になれます

そうよ。

幸せはみんなにおすそ分けしなきゃ!


おめでとう、紗奈ちゃん、正嗣くん。

えへへ〜

ありがとうございます

ありがとうございます
そうだ。

今夜、お祝いのパーティーしましょう!

いいですね!
やったぁ〜

美味しいワインと、美味しい料理でパーティーだ〜

また、紗奈は飲む気満々だな…
えへへ〜

マサ先生、よろしくお願いします

そうだ!

マサ特製のローストビーフ作ってよ

そうだな!久しぶり作るか?

じゃあ、荷物おいたらみんなで買い出し行くか?

行きましょう!
やったぁ〜
1人でいる時間とは違う、穏やかな時が流れる。



子供のいない私たちにとって、大学生活の合間に訪れるこの子たちが自分の子供のように感じていた。

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登場人物紹介

加藤 信江

会社員

ミラー

SLSG研究所 所長

内科・精神科 医師

芳賀 鏡子

医師

ミラーの助手

吉川 咲枝

研究所家政婦

近藤 紗奈(旧姓 富樫)

沖田 保

俳優

警官

ミラーの母親

医師

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