第20話 旅立ち
文字数 1,341文字
気がつくと、自分の部屋のベッドの上に寝かされていた
首元に手をやると、ガーゼが張られていた
私は寝ていた体を起こし、体を前のめりにしながら咲枝さんに尋ねた
咲枝さんはベッドに腰を下ろし、私の背中に手を置いた。
あのとき、空を舞った大量の赤い液体と、お風呂場で目にした真っ赤な手のひらを思い出し、改めて自分の手を見つめなおした
目を閉じるとイヤでもあの瞬間を思い出してしまう
私は顔を覆い、涙を隠した。
赤い液体の臭いが残る自分の手を恨めしく思う
声をあげて泣く、私の背中を咲枝さんは何も言わずただ、ただ撫で続けてくれた
♪チッ、チッ、チッ…
いつもと変わらず、一定のリズムで刻まれる秒針の音を耳にして、少しづつ落ちついてきた
咲枝さんは、優しい表情で上を見上げる
咲枝さんの笑顔につられて、私も口元がほころんだ
そう言うと、咲枝さんは部屋を出た
替わりに、スーツ姿の女性が入って来る
私に見せてくれた警察手帳を胸にしまいながら、歩み寄る。
血のついたミラー先生のハンカチと私が持っていた湖の写真集を渡してくれた
私は受け取った写真集をパラパラとめくり、パタンと本の表紙を閉じた
私は、ミラー先生とベンチで話していたこと、先生のスマホに電話がきてからの一部始終を思い出せる範囲で、ことこまかに話した
メモをとっていた手帳を胸のポケットにしまいながら、そう口にした
女性警官はイスから立ち上がり、私に名刺を渡したあと、部屋を出て行った