第10話 武器商人

文字数 1,207文字

7.武器密売人

 ノートパソコンの画面に映し出されている銀行口座に莫大な額の数字が追加されるのを確認すると智明・スミスは興奮のあまり己の肥満な体を椅子から飛び上がらせた。

「やってくれたぜ、あのカルト教団のイケメン女子! すげえ、これで俺もリッチだ、それもスーパーリッチだぜ、クソったれが!」
 
 椅子から上がると、スミスは脂肪まみれの体を揺らしながらステップを振む。

「ミア、起きろ、我が娘よ! たった今パパはこの日本で億万長者になったんだぜ。こっちへ来て金持ちのパパにハグをしておくれ!」

 傭兵を引退してからアジア各国への麻薬や銃の密売で生計を立てていたスミスは、ある日カルト宗教にかぶれた元ヤクザからの紹介で、その教団の幹部である祐華という女から拳銃やライフルの密売と教団の信者全員に銃器を取り扱えるように訓練をしてほしいと依頼を受けた。

「私は宗教家なので相場を知らないが、すべて君の言い値で取引をしようじゃないか、ミスタースミス」 

 スミスは訝りながらも指導料や拳銃の値段を通常の3倍で提示すると、祐華は値切ることなく承諾した。ただし、金を振り込むのは教団の行事である祝祭が行われる2月26日の日までこの国に滞在するという条件で。

「OK、カルトのナイスレディ。俺の指導は厳しいが、あんたの仲間をへなちょこ信者からソルジャーに仕立て上げてやる」
 
 そして、教団の村で約1か月訓練が行われ、とても一流とは言えないが、信者達はそこそこのレベルで銃器が扱える兵士に仕上がった。

 まだ十歳になったばかりの娘のミアが寝ぼけ眼でスミスの前にやってきた。

「どうしたの、パパ!」

「数か月間もこんな国に済ませて悪かった。だがこれで国に帰れるぞ。金持ちとしてな!」

 ミアが大きな欠伸をかいた。

「それは素敵。おめでとう、パパ」

「さあ、着替えるんだ。とっととこの国からオサラバするぞ」

「今すぐ? まだここで遊びたい」

「悪いが今すぐ荷物をまとめて空港へ向かう。ここが気に入ったのならまた時期を置いて遊びにくればいい。だが今はとっととここから脱出しないと危険だ」
 
 教団が支払いを奴らの行事の当日に設定したのは、その日までスミスが教団に密売した銃器や信者達への訓練の話を他人、特に警察にタレこませないため、つまり報酬はその身代金だ。

 となると奴らは今日、事前に警察に知られてはいけない事をおっぱじめると考えて間違いない。重機関銃を含めた大量の銃器と溢れるほどの銃弾、そして軽く100の数を超える狂ったカルトの兵士を用いて。

 そんな狂気の沙汰に巻き込まれるのは御免だ。これ以上、深入りする前にとっととこの国を後にしなくては。

「さあ、ミア。いい子だから服に着替えてくれ。ともかく俺はリッチになった。これでも悪いママと悪い弁護士からお前を連れ去られる事はなくなる。俺達は堂々と親子でいられるし、俺も糖尿病の治療もできるんだ! 故郷の一流の病院でな!」

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