第34話 イケメン女子幹部と都市伝説の女②

文字数 3,935文字

「さてさて、今回は取り調べのお招き誠にありがとうございますってやつで。ベテランの刑事さん達を差し置いてね。ほんとあんな連中より私ら秘密捜査官を選んだあんたは見所ありそうだね」

 言い、理沙は愛嬌よくウィンクをするが、祐華は冷徹な表情を崩さない。

「礼には及ばん。こっちも聞きたい事があった」

「そうだったね。だったら取り調べを始めさせてもらうよ」

「フン、私から話す事はない」

「はい?」と目を点にする理沙と須藤。

 祐華は今、この会話の主導権を握っているのは自分だと言わんばかりに両腕を組み、パイプ椅子の上で踏ん反り返った。

「だが村に最後までいたお前らに訊きたい事が少々ある。私は現場にいなかったからな」

「ほお、お縄にかかってるって立場なのにいい根性してんじゃん。おもしろい、聞いてみなよ、イケメン女子」

 挑戦に乗るように、理沙は祐華と同じく腕を組んで踏ん反り返った。

「では尋ねるぞ、村に残っていた者達は……皆、無事に旅立ったのか?」

「そうさね、ま、旅立ったっていうような綺麗な終わり方じゃなかったけどね。皆、頭が半分吹っ飛んで、誰もがこんな死に方お断りって思うくらいグロな死体になったよ、ほんと。今頃、死体はネズミの餌になってんじゃないかな」

 須藤が言葉に気を付けるようにと言わんばかりに肘で理沙を突いた。

 すると、祐華が鋼鉄な表情を崩さないまま

「う゛!」と旅立った仲間達を思って嗚咽を堪えるかのような大きな声を一度漏らした。

「え?」と思わぬ反応を受けた理沙と須藤がまた目を点にした。

 祐華は感情をコントロールするかのように二秒ほど間を開けると、何事もなかったように教団の幹部に相応しい堂々とした態度に戻った。

「そうか、皆、祝祭の日に旅立てたのか。それはすばらしい報告を聞いた。では今頃は極楽のあの世に到着し、素晴らしい来世の準備をしている頃だろう」

 理沙がしらけた顔で答える。

「まあ、あのゲロゲロの死体の山を実際に見たら、そんな余裕のある妄想はできないと思うけどね、マジで」

 と、須藤が机の上に身を乗り出して質問をする。

「もう無駄な話をしている時間はありません。テロについて教えてください、残りの信者達は今、どこに? 巨大魔神とはいったい何の事ですか? その巨大魔神を使ってどこでどのような形でテロが行われるのですか? どのような信教を持とうが罪のない人々に危害を与える事は間違えています! まだ大きな被害を出したわけでもなし、今ならまだ間に合います。協力してくだされば、軽い罪を償う事で済むのです。お願いです、残り100人の信者達のためにも取り返しのつかなくなる前に全て話してください!」

 その切迫した口調に動じる事なく祐華はつれない態度で言う。

「答えはさっきの刑事達と言ったものと同じ“何を言っているのか分からない”だ」

 しらじらしくとぼける祐華を嘲笑するように理沙が鼻で笑った。

「やれやれ、まったく顔は可愛いのに性格は可愛くないなあ、もう。仕方がない、何の事か分からないっつのなら私が教えてやろう。まず渋谷と恵比寿のテロは囮だ。最初から捨て駒だった。たぶん出家して日が浅い新人や、教団内でも下っ端の中の下っ端を寄せ集めたんだろね。本当に捨て駒に相応しい」

「え?」と、そんな事思ってもみなかったとばかりに、須藤が思わず驚きの表情を見せた。

 祐華は答えず、表情をまったく動かさない。

「…………」

「あんな馬鹿みたいにあちこちから人が集まる商業地の中心地をテロの場所をわざわざ選んだのはあちこちの警察の勢力をそこに集中させるため。そして、警察がそこで手一杯になった所に最初からメインとして計画されていた最終テロを起こす。それも渋谷や恵比寿で捕まった二等兵連中とは違って、一軍のゴリゴリに殺る気満々の危険な信者達が警察の目を気にすることなく堂々と。つまりのところ今回の計画は最初から教団の全信者を数か所に分散しての多発テロだった。どうよ、この推理。教団のイケメンお姉ちゃん? いい線ついてるでしょ?」

「…………」

「だけど何か知らんがトラブルが起きてその最終テロの進行が遅れている。それが都内のどかに潜んでいる教祖を含めた残り約100人の信者によるメインのテロがいまだに行われていない理由。ま、こんなところかな」

 真相を突かれたか否か顔に出さないまま、祐華が理沙の顔を見据えた。

「それがおまえの推理か?」

「いい線ついてると思うね。なんせこっちはかって月曜日から土曜日までのサスペンス劇場をずっと見てたから推理力は自信ありだ」

「ドラマの見よう見まねで事件を解決できると?」

「まあね! 見てなよ、あんたら教団の最終テロを阻止したあかつきには、列をなして留置所にぶちこまれていくあんたらを見送りながらアカペラで『聖母たちのララバイ』を歌ってやる。因みに私はかなり音痴だ、覚悟をしといた方がいい」

 と、理沙がこれ以上、祐華を挑発して取り調べができなくなるのを防ぐように、須藤が慌てて二人の会話に割りこむ。

「話を元に戻しましょう。時間がないんです。さあ、もう一度考え直してください。残りの約100人の信者はどこに隠れているのですか? 巨大魔神とはいったい何の事でどんなテロが計画されているんですか? 皆が過ちを犯すまえに教えてください」

 祐華が冷たい視線を須藤に送った。

「言ったはずだ。お前らからの質問には応じなない。質問するのはこの私だとな」

「おお、これがこれから罪のない大勢の人々を殺す教団幹部の余裕か? ったくほんと可愛くないねえ、キ〇ガイのカルトは。だけど一つ忠告してやる。いくら傭兵を雇って訓練したとはいえ所詮はキ〇ガイの即席軍隊。例えあんたが優秀な幹部でも奴ら、また暴走するよ」

 そろそろ苛立ってきた理沙に合わせる事無く、祐華は毅然たる態度を続ける。

「お前のつまらない推測など興味はない。それよりも私からもう一つ聞きたい事がある。村に昇麻という男が残っていたはずだ。そいつはどうなった?」

「は? 昇麻?」理沙が汚らしいものを思い出したように表情を歪めた。

「って、あの講演を行っていた教団のNo.3の男ですか?」須藤も不穏な表情を作った。

「そうだ、あれでも教団の幹部だからな。どうなったかを知っておかねばならぬ」

 理沙が額に皺を寄せながら首を横に振る。

「あのクズの中のクズなら信者に心臓をぶち抜かれて死んだ。さんざん教団に尽くしたのに最後は仲間である信者に殺されたってわけだ。クズに相応しい無様な死に方だったね」

理沙が素直に答えると、祐華は先ほどの信者達の死を知った時の反応とは打って変わって、何か胸につっかえていたものが取れたような軽やかな笑みを浮かべた。

「そうか、奴は無様に死んだか。それはいい話を聞いた。奴は正真正銘の疫病神だったからな。死体はどうなった?」

 その後を知らない理沙と須藤は二人そろって両肩を傾げた。

「まあいい、奴の死体も所持品もすべて焼き尽くす事を推奨する。残しておいた所で災いを招くだけだ。必ず実行した方がいいだろう。残りの100人の信者がテロを計画しているなんてくだらん妄想をするよりもな」

 理沙が今の言葉の真意を突き止めるように祐華の瞳の奥を覗いた。

「ほお……それはそれは……」

「これで知りたい事は知った。もうお前らには用はないし、こちらからも話す事はない。ご苦労であったな、二人とも。楽しい会話をさせてもらったぞ。さあ、とっととこの場から失せるがいい」
************************************

 恵比寿での祭事の失敗の後、他の仲間と共に渋谷警察署に拘置されていた信者の芽土と茎陽二人は突然、頭に布袋を被され、拉致をされるように車に押し込まれた。

「おい、なんだ、やめろ、お前ら! これは警察による不当な暴力。犯罪だぞ!」

「しかも宗教弾圧だ、おい、俺らをどこへ連れて行く気だ? 答えろ!」

その抗議の声はまったく聞き入れられる事無く、二人はそのまま警察署から見知らぬ雑居ビルの一室に搬送されると、犬耳のヘッドバンドを付けた十代と思われる白人と黒人の少年に強引に全裸にされ、喉元にチェーンのついた首輪をはめられた。

「これでお前らもご主人様の奴隷だ、ワン」黒人少年が魔物か何かに取りつかれているような目で言った。

白人の少年が犬のようにハァハァ激しい呼吸をしながら、全裸となった二人にはめられた首輪のチェーンを天井から床に繋げられているポール状の鉄棒に繋げた。

「く、くそ、こんな辱め許されると思っているのか、貴様! 言っておくが我々は警察の拷問なんか恐くはないぞ。大神様から頂ける素晴らしい来世が待っているんだ。祝祭の事は何も話さん! どんな暴力や苦痛だって耐え抜いてやる!」

 芽土が手錠で繋がれながらも、何も恐れていないと主張するように憤怒の表情で声を上げた時、隣の部屋のドアから渋谷警察署で自分らに布袋をかぶせた女刑事が現れ、不敵な笑みを浮かべた。

「心配するな。これからの取り調べで私がお前らに与えるのは暴力や苦痛ではなく快楽だ。正直、最初はいろいろとキツイ取り調べになるだろうが心配はいらん、いずれすべてが快楽に思えるようになる。もちろんこの私も一緒に楽しませてもらうがな!」

「へっ、舐めるなよ、ポリ公。教団で長い間どんな苦行を耐え抜いてきたと思っている? 時間の無駄だ。我々は異教徒なんかに屈しない強靭な精神力を持っている。例えどんな手を使おうが……」

とのその時、女刑事が自分の腰にイボイボ付きの

を装着した。
「おいおいおい、待て待て待て待て待て待て!」芽土は茎陽と共にこの世に生を受けてから最大級の悲鳴を上げた。
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