第54話 小競り合い
文字数 3,487文字
「展望室に出直しだ! 撃って撃ちまくって、若い女以外は皆殺しにしろ!」」
祐華の指示通りに新たなる敵が侵入してきた時の為に1階ロビーで待機していた藻菊の一派に向かって、葉咲が怒声を上げた。
「一人残らずエレベーターに乗れ。残りの全員で展望室を攻撃するぞ!」
機関銃を掲げ、戦闘態勢の表情の信者が一人一人南展望室直通のエレベーターに続いていく。
藻菊が狼狽しながら葉咲に尋ねる。
「ちょ、ちょっと待て。今から残りの全員で展望室を攻撃だと?」
「そうだ、展望室に強大な敵を確認した! そいつらを処分して大神様の為に若い新鮮な肉体の女を捕まえる!」
「え? 状況がよく見えない……え? 何の事だ、若い新鮮な肉体の女って?」
「大神様の命令だ。いいからお前も一緒に南展望室へ来い! 全員で敵に攻撃だ」
「い、いや、無理だ。俺達は祐華様からこのロビーに敵が侵入しないよう見張っているように言われている。それにさっきからこんな大騒ぎになっているのに警察が一人も突入してこないなんて変だ。何かあるはずだ。だから俺達はここから離れる事はできない」
「これはその祐華様からの命令だ! こっちの命令の方が新しいんだぞ! いいからお前のところの人員も順にエレベーターに乗せろ! 大神様と祐華様の怒りを買いたくなければな!」
藻菊は躊躇するように体をそわそわさせると、最後の切り札としてロビーの中央で四連装のロケットランチャーを構えていた信者に向かって手招きする。
「分かった。ロケット砲も含めてここにいる全勢力も投入してやる。その展望室にいる邪魔な敵を全員で始末しよう。そして、そこをちゃっちゃと片づけたら俺達はまたロビーに戻る。これでいいな?」
葉咲がロケットランチャーを見て目をギラらつかせる。
「いいだろう、ならば急げ。若い女以外、動くものはみな撃て! 目障りな奴にはロケット弾を食らわせるがいい! 遠慮はいらんぞ! 全ての弾を使い切れと指示を受けてるからな!」
*************************************
「ともかく今、僕らは団結しなくてはならない時なのです!」須藤が力強い口調で言った。
老人と狙撃手はライフルを手に持ちながらも、ぽかんとした表情になっている。
言葉がなくともその顔がはっきりと言っている“え? なんなの、このバカは?”と。
「ここにいる皆で力を合わせて巨大ロボットの発動を阻止するんです。赤マントと祐華を抑えれば都民から被害者を出さないまま、最終テロを食い止められます」
そこで、須藤は結託を促すように老人と狙撃手に向かって、ぐっと拳を握った。
「今となっては教団のテロを止められるのはここに残っている僕らしかいないのです! さあ、一人でも多くの人々を守るのです! 僕らが力を合わせれば教団の巨大ロボットテロを阻止できるはずです!」
その力説に対し、老人と狙撃手は賛同の言葉も発せず、ただ細くなった目でじっと須藤を見据える。
「あー…………えーと、その目はどういう答えで?」
理沙がカウンターの後ろから右掌だけを出し“とっととどこかに引っ込め!”と言わんばかりにぶんぶんと横に振った。
次の瞬間、老人と狙撃手はライフルを構え、須藤向かって揃って引き金をひいた。
「うわあああわあっつ!」と叫びながら、須藤は一般開放されているグランドピアノの下に飛び込む。
老人と狙撃手はノーの言葉を叩きつけるように、そのピアノにも弾丸もぶち込んだ。
理沙がカウンターの後ろから顔の上半分だけ出し、不満たっぷりな目でじっと須藤を見た。
「どうだ、満足か? マー坊」
「う……時間がないうえに協力してくれる仲間が必要なのに!」
「おい、だから例の解放の言葉を言えっつの、どこの誰よりも最強な仲間が現れるぞ!」
「いいえ、この場を逃れるために、一般の人々に大きなリスクを与えるわけにはいきません!」
と、その時、これまで床の上で撃たれた右膝を抱え、苦痛で呻いていた鷹藤が顔を上げる。
「だ、だったら俺が例の呪文を言う。別に特定の人間が言わなきゃならないってわけじゃないんだろ? さあ、お前を解放する言葉をこの俺が言ってやる。その代わり何よりも先に俺をこのクソッタレた建物から安全な場所へ連れてけ、できるだけ遠くにな。それが条件だ!」
そう声を張り上げたと同時に、鷹藤の左膝から血が飛び散った。
「ぎゃあああああああ、いてえええええええええっ!!! もう、もう、もう!」
硝煙の残る銃口を鷹藤に向けたまま、老人が警告する。
「次ふざけた真似を考えをしようなら、頭を粉々にして脳みそを床にばらまいてやる!」
須藤はグランドピアノの下で焦燥感に駆られながら頭を抱えた。
「ああ、こんな所でこんな小競り合いをしている場合じゃないのに! 」
理沙がまた顔半分だけカウンターの後ろから顔を出す。
「おーい、マー坊。落ち込んでいる時になんだが、もう団結とかそんな悠長な事言ってられなくなったぞ」
「え、なぜです?」
理沙は顔半分を出した状態のまま、右手首をカウンターの下から出し、エレベーターに指をさした。
「ああいうわけだ!」
そして、エレベーターが下の階から到着した事を告げる電子音が響いた。
「え…………」っと、須藤が声を漏らしたと同時に、開いた扉から赤い福音の信者達が展望室に猛然と突入してくる。
「撃て撃て撃て! 遠慮する事無く弾を浴びせろ! 脅威は一人残らず排除しろ!」
葉咲の号令と共に、大量の機関銃から放たれた火花が明滅し、空間という空間を切り裂くように弾丸の嵐が飛び交いだした。
*************************************
航空自衛隊入間基地の滑走路からF15ジェット機が一機一機と続いて飛び立っていく。
管制塔からその様子を見守る隊員が言った。
「なんで、こんな時間に何の予告もなしに急に演習を?」
隣の席の隊員が怯えるような表情で答える
「……俺達は何も知らないって事にしたほうがいい事が起こるのかもな……」
「…………ミサイルを積んだ戦闘機でか?……本当に演習であってくれればいいが……」
********************************
会議室に運ばれた液晶モニターに新宿の喧騒をTVレポーターが中継している様が映し出されている。
その横で友川は蒼白な表情で会話を終えた電話を切った。
「官房長官……たった今、入間基地から東京都庁向かって戦闘機が飛び立ったとの報告がありました」
抗議をするような冷たい視線で友川が伝えると、機動隊員、警官、報道、野次馬など多くの人間で都庁の周りが埋め尽くされている映像を見ながら吉城は首を横に振った。
「都庁の中に一般の人間が残っていなければいいが……」
「分かりません。しかし、2機の戦闘機から都庁にミサイルが発射されたら、破片や炎が散ってその周辺にも……」
と、その時、牧田が血相を変えて友川に迫る。
「おい、待て、今、2機と言ったか?」
「は、はい、そうですが……何か?……」
「バカな……足りない。2機じゃ足りなすぎる……」
「え?……」
「……くそ、嫌な予感がする……心の底から嫌な予感がな……」
********************************
薄暗い空間の中、祐華は革製の背もたれの長い座席に座ると、横に並んでいる計器盤の下にある赤いボタンを押す。
すると、コクピット内の照明がつき、負傷の影響で弱くなってきた祐華の視界に操作盤の各スイッチやスチール製のレバーの数々が姿を現した。
「いいぞ……全て図面の記憶の通りだ……何一ついじられていない……」
祐華が目の前にある大型のブラウン管型ディスプレイのスイッチを入れると、目の前のガラスの画面に、リアルタイムの新宿一帯の夜景が映し出される。
そして、後を追うように死角となっている都庁の左右と背後、足元と言える近辺の通りの映像を三台の小型のディスプレイが映し始めた。
「ほう、大人しいと思っていたが、やはり警察の大群に包囲されていたわけだ……」
祐華は画面の中で都庁近辺を封鎖している機動隊や大勢の警察官の姿を冷たい目線で見ながら言った。
「いいだろう、まとめて相手になってやる!」
無意識に血で濡れまくった腹の傷を右手で押さえながら、祐華はもう片方の手で操作盤のボタンの一つを押した。
すると、天井のスピーカーから機械で作られた女の音声が流れだす。
「東京都庁舎型巨大起動兵器、始動3分前! 東京都庁舎型巨大起動兵器、始動3分前! 東京都庁舎型巨大起動兵器、始動3分前!」
祐華の指示通りに新たなる敵が侵入してきた時の為に1階ロビーで待機していた藻菊の一派に向かって、葉咲が怒声を上げた。
「一人残らずエレベーターに乗れ。残りの全員で展望室を攻撃するぞ!」
機関銃を掲げ、戦闘態勢の表情の信者が一人一人南展望室直通のエレベーターに続いていく。
藻菊が狼狽しながら葉咲に尋ねる。
「ちょ、ちょっと待て。今から残りの全員で展望室を攻撃だと?」
「そうだ、展望室に強大な敵を確認した! そいつらを処分して大神様の為に若い新鮮な肉体の女を捕まえる!」
「え? 状況がよく見えない……え? 何の事だ、若い新鮮な肉体の女って?」
「大神様の命令だ。いいからお前も一緒に南展望室へ来い! 全員で敵に攻撃だ」
「い、いや、無理だ。俺達は祐華様からこのロビーに敵が侵入しないよう見張っているように言われている。それにさっきからこんな大騒ぎになっているのに警察が一人も突入してこないなんて変だ。何かあるはずだ。だから俺達はここから離れる事はできない」
「これはその祐華様からの命令だ! こっちの命令の方が新しいんだぞ! いいからお前のところの人員も順にエレベーターに乗せろ! 大神様と祐華様の怒りを買いたくなければな!」
藻菊は躊躇するように体をそわそわさせると、最後の切り札としてロビーの中央で四連装のロケットランチャーを構えていた信者に向かって手招きする。
「分かった。ロケット砲も含めてここにいる全勢力も投入してやる。その展望室にいる邪魔な敵を全員で始末しよう。そして、そこをちゃっちゃと片づけたら俺達はまたロビーに戻る。これでいいな?」
葉咲がロケットランチャーを見て目をギラらつかせる。
「いいだろう、ならば急げ。若い女以外、動くものはみな撃て! 目障りな奴にはロケット弾を食らわせるがいい! 遠慮はいらんぞ! 全ての弾を使い切れと指示を受けてるからな!」
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「ともかく今、僕らは団結しなくてはならない時なのです!」須藤が力強い口調で言った。
老人と狙撃手はライフルを手に持ちながらも、ぽかんとした表情になっている。
言葉がなくともその顔がはっきりと言っている“え? なんなの、このバカは?”と。
「ここにいる皆で力を合わせて巨大ロボットの発動を阻止するんです。赤マントと祐華を抑えれば都民から被害者を出さないまま、最終テロを食い止められます」
そこで、須藤は結託を促すように老人と狙撃手に向かって、ぐっと拳を握った。
「今となっては教団のテロを止められるのはここに残っている僕らしかいないのです! さあ、一人でも多くの人々を守るのです! 僕らが力を合わせれば教団の巨大ロボットテロを阻止できるはずです!」
その力説に対し、老人と狙撃手は賛同の言葉も発せず、ただ細くなった目でじっと須藤を見据える。
「あー…………えーと、その目はどういう答えで?」
理沙がカウンターの後ろから右掌だけを出し“とっととどこかに引っ込め!”と言わんばかりにぶんぶんと横に振った。
次の瞬間、老人と狙撃手はライフルを構え、須藤向かって揃って引き金をひいた。
「うわあああわあっつ!」と叫びながら、須藤は一般開放されているグランドピアノの下に飛び込む。
老人と狙撃手はノーの言葉を叩きつけるように、そのピアノにも弾丸もぶち込んだ。
理沙がカウンターの後ろから顔の上半分だけ出し、不満たっぷりな目でじっと須藤を見た。
「どうだ、満足か? マー坊」
「う……時間がないうえに協力してくれる仲間が必要なのに!」
「おい、だから例の解放の言葉を言えっつの、どこの誰よりも最強な仲間が現れるぞ!」
「いいえ、この場を逃れるために、一般の人々に大きなリスクを与えるわけにはいきません!」
と、その時、これまで床の上で撃たれた右膝を抱え、苦痛で呻いていた鷹藤が顔を上げる。
「だ、だったら俺が例の呪文を言う。別に特定の人間が言わなきゃならないってわけじゃないんだろ? さあ、お前を解放する言葉をこの俺が言ってやる。その代わり何よりも先に俺をこのクソッタレた建物から安全な場所へ連れてけ、できるだけ遠くにな。それが条件だ!」
そう声を張り上げたと同時に、鷹藤の左膝から血が飛び散った。
「ぎゃあああああああ、いてえええええええええっ!!! もう、もう、もう!」
硝煙の残る銃口を鷹藤に向けたまま、老人が警告する。
「次ふざけた真似を考えをしようなら、頭を粉々にして脳みそを床にばらまいてやる!」
須藤はグランドピアノの下で焦燥感に駆られながら頭を抱えた。
「ああ、こんな所でこんな小競り合いをしている場合じゃないのに! 」
理沙がまた顔半分だけカウンターの後ろから顔を出す。
「おーい、マー坊。落ち込んでいる時になんだが、もう団結とかそんな悠長な事言ってられなくなったぞ」
「え、なぜです?」
理沙は顔半分を出した状態のまま、右手首をカウンターの下から出し、エレベーターに指をさした。
「ああいうわけだ!」
そして、エレベーターが下の階から到着した事を告げる電子音が響いた。
「え…………」っと、須藤が声を漏らしたと同時に、開いた扉から赤い福音の信者達が展望室に猛然と突入してくる。
「撃て撃て撃て! 遠慮する事無く弾を浴びせろ! 脅威は一人残らず排除しろ!」
葉咲の号令と共に、大量の機関銃から放たれた火花が明滅し、空間という空間を切り裂くように弾丸の嵐が飛び交いだした。
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航空自衛隊入間基地の滑走路からF15ジェット機が一機一機と続いて飛び立っていく。
管制塔からその様子を見守る隊員が言った。
「なんで、こんな時間に何の予告もなしに急に演習を?」
隣の席の隊員が怯えるような表情で答える
「……俺達は何も知らないって事にしたほうがいい事が起こるのかもな……」
「…………ミサイルを積んだ戦闘機でか?……本当に演習であってくれればいいが……」
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会議室に運ばれた液晶モニターに新宿の喧騒をTVレポーターが中継している様が映し出されている。
その横で友川は蒼白な表情で会話を終えた電話を切った。
「官房長官……たった今、入間基地から東京都庁向かって戦闘機が飛び立ったとの報告がありました」
抗議をするような冷たい視線で友川が伝えると、機動隊員、警官、報道、野次馬など多くの人間で都庁の周りが埋め尽くされている映像を見ながら吉城は首を横に振った。
「都庁の中に一般の人間が残っていなければいいが……」
「分かりません。しかし、2機の戦闘機から都庁にミサイルが発射されたら、破片や炎が散ってその周辺にも……」
と、その時、牧田が血相を変えて友川に迫る。
「おい、待て、今、2機と言ったか?」
「は、はい、そうですが……何か?……」
「バカな……足りない。2機じゃ足りなすぎる……」
「え?……」
「……くそ、嫌な予感がする……心の底から嫌な予感がな……」
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薄暗い空間の中、祐華は革製の背もたれの長い座席に座ると、横に並んでいる計器盤の下にある赤いボタンを押す。
すると、コクピット内の照明がつき、負傷の影響で弱くなってきた祐華の視界に操作盤の各スイッチやスチール製のレバーの数々が姿を現した。
「いいぞ……全て図面の記憶の通りだ……何一ついじられていない……」
祐華が目の前にある大型のブラウン管型ディスプレイのスイッチを入れると、目の前のガラスの画面に、リアルタイムの新宿一帯の夜景が映し出される。
そして、後を追うように死角となっている都庁の左右と背後、足元と言える近辺の通りの映像を三台の小型のディスプレイが映し始めた。
「ほう、大人しいと思っていたが、やはり警察の大群に包囲されていたわけだ……」
祐華は画面の中で都庁近辺を封鎖している機動隊や大勢の警察官の姿を冷たい目線で見ながら言った。
「いいだろう、まとめて相手になってやる!」
無意識に血で濡れまくった腹の傷を右手で押さえながら、祐華はもう片方の手で操作盤のボタンの一つを押した。
すると、天井のスピーカーから機械で作られた女の音声が流れだす。
「東京都庁舎型巨大起動兵器、始動3分前! 東京都庁舎型巨大起動兵器、始動3分前! 東京都庁舎型巨大起動兵器、始動3分前!」