第28話 動揺する悪の黒幕
文字数 1,595文字
警官に手錠をはめられ、パトカーの中へ押し込まれる祐華の姿がノートパソコンの画面に映し出された。
鷹藤は現場にいる一般人から配信されているその動画を見るや、口にふくんだばかりのワインを勢いよく口から噴き出す。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!」
そう悲鳴の混じった声を挙げるやいなや、鷹藤は狼のマスクを被り、怒りと困惑で手を震わせながら電話をダイヤルした。
「は、はい、藻菊です!」
「おい“精霊計画”は? 薬の効果が出る時間も過ぎているのに、テロが起こるどころか祐華と信者達が次々と捕まってる様子がニュースで配信されているぞ! 真師はどうした? もう女子高生達と共に怪物の肉体を得ているはずだ。祐華を助けに行かせて暴れさろ! そして計画どおり街で破壊の限りを尽くして、我が社の新製品の完成度を世間と株主と上客どもに見せてやるんだ!」
「それが……真師様は意識を失ったままでピクリとも動きません!」
狼のマスクが揺れるほど、鷹藤は顔を引きつらせた。
「な、なんだと、そんなバカな事があるか! さてはお前ら投与する量を間違えたな! それ以外に理由は考えられない!」
「いえ、そ、そんな事は決してありません。ちゃんと言われたとおりに投与しました! 量も時間もまったく正確に!」
「女子高生は? 女子高生達はどうなっている? 奴らの肉体の方が新鮮なぶん、素晴らしい怪物ぶりを見せてくれるはずだ!」
「そ、それが女子高生達は皆、行方不明で……と、ともかくもうこれ以上はどうにもなりません。今回の祭はもう失敗として、一度退散した方がよいかと……」
失敗? その言葉が頭に浮かんだ瞬間、一気に全ての体温を奪うかのような強い悪寒が鷹藤の全身に走った。
今回の計画はアカネ十字社設立以来の膨大な予算が駆けられている。だがもしその計画が一銭の利益を出すどころか、新薬の成果を出さないまま潰れたら、お爺様、いや会長は計画の責任者であり、孫である自分に寛大な心を見せてくれるだろうか?
「ああ、ダメだ……それは絶対ダメなやつだ……」
やはりそれは現実的な考えではない。現に会長の実の一人息子、そして自分の父親である元春が一つの些細なヘマで会社から追放、家系からも絶縁をされたという実例があるではないか!
全てを失う恐怖で一度ぶるっと体を大きく震わせると鷹藤はまた携帯を耳に当てた。
「今、残っている教団のリーダー格の連中はどうしてる?」
「葉咲様が計画どおり残りの100名と銃器を持ったまま巨大魔神が眠っている敷地の周辺の公園で最終攻撃に向けて待機中です」
「くそ、残ってるリーダー格がサイコパスの三下とはな! 何よりもなぜ祐華は恵比寿に行った? 真師と共に最後の決戦場から全員に指示を出すはずだったろ!」
「ああいうお方です。幹部とはいえ高座で胡座をかく事を自分で許せず、下々の者達の最後の勇姿を見届けてから、最後の決戦地で真師様と合流する気でいたに違いありません!」
鷹藤は自暴自棄になったように、ワインをグラスに注がず、瓶をそのまま口に当て一気に流し込んだ。
「今、お前の何年分もの年収のワインを一気に飲んだ。この気持ち分かるか?」
「出家しているから給料はありませんが、その胸の内は分かります」
「ともかく“精霊計画”は続けろ。中止は許さん!」
「し、しかしもうこの現状では……」
鷹藤はお得意の高圧的な語調で、ゆっくりと告げる。
「精霊計画を続行しろ。まずは祐華を警察から取り戻せ。精神のまともなリーダー格をな。もし失敗したその時は真師への薬の提供を打ち切る。例え魔人になれど真師には今後も我が社の薬の投与が必要だ。教祖をただの枯れたミイラにしたくなかったらお前の命を捨ててでも計画を成功させろ!」
「そ、それは脅迫ですか?……」
「いいや、ビジネスだ!」
そう吐き捨てるように言うと、鷹藤は一方的に電話を切った。
鷹藤は現場にいる一般人から配信されているその動画を見るや、口にふくんだばかりのワインを勢いよく口から噴き出す。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!」
そう悲鳴の混じった声を挙げるやいなや、鷹藤は狼のマスクを被り、怒りと困惑で手を震わせながら電話をダイヤルした。
「は、はい、藻菊です!」
「おい“精霊計画”は? 薬の効果が出る時間も過ぎているのに、テロが起こるどころか祐華と信者達が次々と捕まってる様子がニュースで配信されているぞ! 真師はどうした? もう女子高生達と共に怪物の肉体を得ているはずだ。祐華を助けに行かせて暴れさろ! そして計画どおり街で破壊の限りを尽くして、我が社の新製品の完成度を世間と株主と上客どもに見せてやるんだ!」
「それが……真師様は意識を失ったままでピクリとも動きません!」
狼のマスクが揺れるほど、鷹藤は顔を引きつらせた。
「な、なんだと、そんなバカな事があるか! さてはお前ら投与する量を間違えたな! それ以外に理由は考えられない!」
「いえ、そ、そんな事は決してありません。ちゃんと言われたとおりに投与しました! 量も時間もまったく正確に!」
「女子高生は? 女子高生達はどうなっている? 奴らの肉体の方が新鮮なぶん、素晴らしい怪物ぶりを見せてくれるはずだ!」
「そ、それが女子高生達は皆、行方不明で……と、ともかくもうこれ以上はどうにもなりません。今回の祭はもう失敗として、一度退散した方がよいかと……」
失敗? その言葉が頭に浮かんだ瞬間、一気に全ての体温を奪うかのような強い悪寒が鷹藤の全身に走った。
今回の計画はアカネ十字社設立以来の膨大な予算が駆けられている。だがもしその計画が一銭の利益を出すどころか、新薬の成果を出さないまま潰れたら、お爺様、いや会長は計画の責任者であり、孫である自分に寛大な心を見せてくれるだろうか?
「ああ、ダメだ……それは絶対ダメなやつだ……」
やはりそれは現実的な考えではない。現に会長の実の一人息子、そして自分の父親である元春が一つの些細なヘマで会社から追放、家系からも絶縁をされたという実例があるではないか!
全てを失う恐怖で一度ぶるっと体を大きく震わせると鷹藤はまた携帯を耳に当てた。
「今、残っている教団のリーダー格の連中はどうしてる?」
「葉咲様が計画どおり残りの100名と銃器を持ったまま巨大魔神が眠っている敷地の周辺の公園で最終攻撃に向けて待機中です」
「くそ、残ってるリーダー格がサイコパスの三下とはな! 何よりもなぜ祐華は恵比寿に行った? 真師と共に最後の決戦場から全員に指示を出すはずだったろ!」
「ああいうお方です。幹部とはいえ高座で胡座をかく事を自分で許せず、下々の者達の最後の勇姿を見届けてから、最後の決戦地で真師様と合流する気でいたに違いありません!」
鷹藤は自暴自棄になったように、ワインをグラスに注がず、瓶をそのまま口に当て一気に流し込んだ。
「今、お前の何年分もの年収のワインを一気に飲んだ。この気持ち分かるか?」
「出家しているから給料はありませんが、その胸の内は分かります」
「ともかく“精霊計画”は続けろ。中止は許さん!」
「し、しかしもうこの現状では……」
鷹藤はお得意の高圧的な語調で、ゆっくりと告げる。
「精霊計画を続行しろ。まずは祐華を警察から取り戻せ。精神のまともなリーダー格をな。もし失敗したその時は真師への薬の提供を打ち切る。例え魔人になれど真師には今後も我が社の薬の投与が必要だ。教祖をただの枯れたミイラにしたくなかったらお前の命を捨ててでも計画を成功させろ!」
「そ、それは脅迫ですか?……」
「いいや、ビジネスだ!」
そう吐き捨てるように言うと、鷹藤は一方的に電話を切った。