第46話 ガーディアン達

文字数 3,182文字

 須藤が驚愕と困惑の入り混じった表情で確認をする。

「は? つまり、この都本庁舎は有事があった時、巨大ロボットに変身するように作られている? それも脅威の破壊力をもった? それが巨大魔神の正体で、その巨大ロボットを使って都で大規模なテロを行おうというのが教団の真の狙い?」

 鷹藤が脂汗まみれの顔で苦笑いを浮かべた。

「そうだ、奴らはこの都庁を巨大ロボにトランスフォームさせて、好きなように操作し、東京を火の海に包むつもりだ。多くの罪のない人間を精霊にしてな。これが教団の最終テロ、祝祭ってやつだ。うちの会社では祝祭なんてまどろっこしい言い方をせずにストレートに精霊計画って呼んでたがな!」

 平静を失わないように心がけていながらも、須藤は動揺のあまり語調を強くしてしまう。

「そ、そんなふざけた都市伝説、冗談にしたって限度がある。笑えやしない! まったくこれっぽちも! 誰だってそう言う!」

「だが事実だ、都庁は巨大な兵器に変身する。そうなった時、この200m超えの巨大兵器を止められるものはない。自衛隊だろうが米軍だろうが何を駆使して歯が立たない。この街も130万人という東京都民の皆様も、紅い福音どもが操る巨大ロボットにとことん蹂躙されるってわけだ」

「…………」

 戦慄のあまり言葉を失った須藤に代わって理沙が尋ねる。

「分からん……例えその都市伝説が現実のものだとしても、いったいこの平和な国で何のためにそんな狂った破壊兵器を作ったわけ? 昭和の国会議員が皆隠れアニメオタクだったわけでもあるまいし」

「戦後からこの国には自衛隊はあれど海外から敵に襲われた時、自国で国民を守る決定的な武器がなかった。だがバブルで金が腐るほど余って、その状況に危機感を抱いた昭和のこの国の偉い連中が、潤沢であった国家予算をちょろまかしてこの計画にGOサインを出した。お前なら分かるだろ? あの時代は冷戦ってやつの真っ最中で、この日本も冷戦の中にどっぷり巻き込まれていた。いつ第三次世界大戦が起きてもおかしくなかった。だからこの国には史上最強の兵器が必要だったんだ。もちろん世界には極秘のな!」

 理沙は頭痛がしてきたと言わんばかりに額に掌を当てると、再び外の光景に目を戻した。

「で、その昭和の名残りを我が物にして使い放題にするために教団の連中が只今、こっちに向かって来てるってわけだ。大量の弾薬を抱えながら」

「そうだ、いくら昭和が平和でおおらかな時代だったとはいえ、まさかその数十年後に宗教団体がテロ目的に国民を守るための秘密兵器を奪取しようとは昭和の誰もが夢にも思ってなかったろうよ! おかげで国民を守るはずだった日本国最大最強の兵器を簡単にキ〇ガイどもに強奪されるこっとになっちまうんだ!」

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 相手が目上の人間、しかも官房長官とはいえ友川は強い口調で疑問をぶつけた。

「しかし都庁がそんな危険な破壊兵器となるのなら、テロや敵国に奪取されたら大変な事になります。なぜ、機動隊による重厚な警備がないのですか? 私が知っている限り都庁に配備されているのは時給で雇われている警備員と小さな派出所のみです!」

 吉城は苦悶の表情を浮かべながら答える。

「いいや、都庁が無防備になった事など一度もない。日本の首都を代表する建造物を国がおざなりにするわけないだろう! 完成時から有事やテロに備えて都庁を警守すべく選抜された特別警備隊員、ガーディアン達が365日、24時間体制で我が国の秘密兵器を守っている!」

「特別警備隊員? ガーディアン? 初耳です。何の事を言っているのか分かりませんし、私は数えきれないほど都庁に足を運んでいますが、そんな漫画みたいな兵隊、見た事も耳にした事もありません!」

「そうだろう、世を忍ぶ仮の姿で都庁を守っているのだからな……」

「仮の姿?……」

 と、今度は牧田が口を開く。

「新宿公園に不法居住している浮浪者達を見て何か思った事は? 都庁の周りに不自然に大勢いる事に疑問を感じた事が一度や二度あるはずだ」

「え……」

「それだけじゃない。都庁の職員の数は4万人、日本国の首都の役所とはいえいくらなんでも数が多すぎる。その中に何か特別な職員が紛れているのでは、と疑った事は?」 

 衝撃の事実に気づいたように友川が愕然とする。

「ま、まさか、その彼らが……都本庁舎を守るガーディアンだったと言うのですか……そ、そんな話、都市伝説としてですら聞いたことがありませんよ……」

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 森田はいつから世を捨て今の生活を続けているのか失念するほど、長期に渡ってホームレスとしての生活を送ってきたが、これほど異様な光景を目にするのは初めてだった。

 新宿公園内で居住する大勢のホームレスの中で高齢ではない者達が、公園のどこに隠していたか分からない機関銃らしき物を構え、軍隊のごとく列をなして都庁向かって前進しているのだ。

「よお、森田の爺さん!」

 その兵隊の列の中から知っているホームレスの鮫山が声をかけてきた。

「命を懸けて都庁を守る仕事が入っちまった。悪いが今日でお別れだ。あまり飲みすぎるな、風邪には気をつけろ、達者でな」

 その中年のホームレスの鮫山は友人に向かって別れの笑みを浮かべると機関銃を構え直し、再び前を向いた。

 森田は足並みを揃えながら戦地向かって進む兵隊たちを唖然とした顔で見送る。

「な……あんたらいったい何者なんだ?……」

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 都庁第一本庁舎・南棟36階にある会計管理局の社員達は、けたたましく鳴り続ける警報と、守衛や清掃員を含めた非常勤の職員達が機関銃を持って廊下を駆けずり回っている様子を見て深く困惑をしていた。

「皆さん、どうしたのです、警報が鳴っていますよ。早く都庁から退避を!」

 庶務課の嘱託社員・小池が自動ライフルを構えながら庶務課に顔を出した。

 その小池の上司である課長は何が起きているのかと、不安にまみれた表情で尋ねる。

「こ、小池さんか? いったい何がどうなってる? その手に持っているのは機関銃か?」

「それよりもこの都庁第一本舎に危機が迫っています。皆さん、急いで外へ避難を!」

「き、危険て、いったい何が?……それに小池さん、あんたいったいどうしてそんな機関銃みたいなものを持っているんだ?」

 小池は残念そうに息をついた。

「説明している時間はありません。我々がガーディアンとして最後まで活動する事なく平和な日々が続く事を願っていました。しかし、どうやらその希望は打ち破られる事になりそうです。さあ、後は我々がこの都庁を、そして何よりも都民を守ります。皆さんは早く遠くまで逃げるのです!」

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 須藤が窓の外を見て驚愕する。

「……た、大変だ。ホームレスの人達が都庁に侵入してきています! え? え? い、いったい、なんで! しかもこんな時に! 彼らの耳に警報が届いていないのでしょうか? 早く入館を止めて避難させないと……」

 理沙はそのホームレス達が機関銃や拳銃を手に持っている様を見ると、その目的を察したよう笑みを浮かべる。

「どうやら都庁のロボット計画を立案した昔の人々は簡単にこの建物を奪取されないようにちゃんと計算してたようだよ。つまり昭和の人達はあんたが思って程バカじゃなかったようだ、ゲロ男爵」

 鷹藤はそんな事に構ってられないように、床に蹲り両手で頭を抱えながら脅え続けている。

「…………く、来る。奴らが……は、始まっちまう、もう逃げられねえ……皆ここで死ぬ、一人残らず無残に死ぬんだ……」
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