第41話 都市伝説の女と愉快な悪の黒幕
文字数 3,434文字
渋滞で道を埋め尽くしている車の群れの隙間を赤マント、祐華、機関銃を携帯した藻菊が走る。
何事かとその赤き怪物の巨体に目を向ける通行人や車の運転手達に目もくれず、藻菊が携帯電話を耳に当てた。
「国道が事故渋滞で使い物にならないから、足でそっちに向かっている。後20分もあれば巨大魔神の元へ到着する。そちらはどうだ?」
「こちらは順調だ。残りの100人皆、やる気満々で脱落者は一人もいない。巨大魔神様も我々の突入を待ち遠しそうにこちらを見守っているぞ」電話からそう高揚した葉咲の声が返ってきた。
その時、若い会社員の男が動画を撮影しようと教祖に向かって携帯のカメラを向けた。
赤マントが立ち止まり、その社員と周りにいる同僚らしき男女グループに顔を向ける。
「大神、行けません。今は祝祭の最後の祭事に集中を……」
祐華の言葉は届かなった。
赤マントは十メートルの距離はあったその会社員達の元まで一瞬で飛躍し、カメラを向けた社員の頭の上にその大きな掌を乗せると、横に軽く回した。
「ワハハハハハハッ! 死ねえ、死ぬがいい、虫けらよ!」
激痛の声をあげる間もなく、その会社員は首を切断され、残された体が首元から血を噴き出しながら地面に崩れた。
「ひぃぃぃぃっ!」とその残虐な瞬間を目撃した周辺の通行人が、戦慄の表情を浮かべながら逃げ回り出す。
赤マントはまだ己の手のうちにある会社員の生首を見つめながら、己に満ち溢れている力に酔うように不気味な笑顔を浮かべる。
「大神! 道草をしている場合ではありません。最終地に、巨大魔神の元へ急ぎましょうぞ! 最後の、そして我が教団最大の祭事を開始するのです!」
だが、赤マントは自らの暴力の欲望に従うように、その場から必死に走り去る人間達向かって跳躍した。
「大神! いけません!」
祐華の訴えの後に、赤マントに捕まった会社員達の絶叫が轟き、周辺の道路に大量の血しぶきと引き千切られた手足が宙に散った。
「ぎゃあああああ!」
「う、うわあ、え、赤マント? え、う、嘘、まじか? や、やめろぉぉぉ」
「ひ、ひぃぃぃぃ! っだ、誰か助けて! 助けてくれー!」
藻菊が電話向かって訂正する。
「あー……と、到着までもう少し時間がかかるかもしれない。そのまま巨大魔神がいる前のビルで待機をしていてくれ」
言い、藻菊は電話を切ると、もはや視界に入る距離にある東京都庁の第一本庁舎を見つめ声を震わせる。
「も、もうすぐなんだ。もう目の前まで来ているんだ。必ず、赤マント様と祐華様を巨大魔神の元へ!」
*************************************
鷹藤は胃の中のモノをすっかり吐きだし終えると、恐る恐る顔を上げ口裂け女と童顔刑事の様子を確認する。
「…………」
先程はすぐ目の前にまでいたのに、いまや二人とも事務所の入り口の横まで距離を取り、その壁に背中をつけながらドン引きした表情で自分を見つめている。
「あー……話を聞かせてもらいたいんだけど……」
警察バッジをちらつかせながら困ったように言った口裂け女向かって、鷹藤は“待て”と言わんばかりに右掌を上に挙げた。
「その前にシャツを着替えてもいいか?」
二人は胸から腹まで汚物まみれの鷹藤に顔をしかめながらブンブンと首を縦に振った。
「失敬……」
呟いてから上着を脱ぎ、そそくさと建前は来客用応接室となっている小部屋に駆け込んで鍵を閉めると、鷹藤は声を出さないまま絶叫を上げるように口を大きく開いた。
あああああ、なぜだ? なぜここに口裂け女と若造刑事が捜査にやってきた?
どうやってここを知った? 足がつくような落ち度は何もなかったはずだ!
だが現に奴らはこの小林商事の事務所に姿を現せたうえ、今回の教団のテロとアカネ十字社の変な薬について聞きたいと主張している。
「なんでこんな事態に、なぜだ!」」
ここで計画を終わらせるわけにはいかない。アカネ十字社にとって全てが順調に進んでいる。教祖は強力な兵器と化し、見込み客が見ている中、破壊の限りを尽くすショーが継続されている。
警察がどこまでキ〇ガイ教団のテロとアカネ十字社の繋がりを把握しているか分からないが、ここはどんな手を使ってでも二人を処分して切り抜けなくてはならない。
この場でだ!
若造刑事の方は簡単な圧力だけでこっちに尻尾を振る事になるだろう。なにせアカネ十字社は警察の上昇部にまで深い繋がりを持っている。
それに何も焦る事はない。あの昭和の化物でさえも恐れるに足らずだ。元から口裂け女を始末するために元刑事のジジイと警察と自衛隊あがりの狙撃手を何人も雇っている。奴らに連絡してすぐにここを襲撃させ全てを終わらせよう。あの口裂け女の伝説がこのカビ臭い安い雑居ビルで蜂の巣となって終焉するのだ。
「ククククク」
己の悪運の強さに今回、身にこびり付いた笑い声をあげながらスマートフォンを持とうと胸に手を当てた時、一気に鷹藤の顔が暗いものになった。
「あ……」
スマートフォンをポケットに入れたままの上着……今、さっき着替えるって言って脱いで自分の机の上に置いてきちゃった……。
鷹藤はPKを外したサッカー選手のように両手で頭を抱え、膝から崩れた。
「ノオオオォォォ!」
い、いや、待て。大丈夫だ、奴らの手を借りずとも俺はこの窮地を切り抜けられる。
そうだ、ありとあらゆる事を想定し、全て準備をしてきたじゃないか。
万が一口裂け女と遭遇し、牙をむかれるような事があった時の対策まで滞りなく!
「そうだ、なめるなよ、俺を誰だと思っている。鷹藤一族の血を引く者だぞ。俺ならできる。都市伝説の怪物だろうと俺の手で葬ってやる! こんな事態が生じた時のために用意していた武器を使って地獄へ送ってやる!」
自分を奮い立たせるように力を込めてそういうと、鷹藤はソファーの上に無造作に置いてあったボストンバッグを手に取った。
「まさかこの俺が自らの手で口裂け女を始末する時がくるとはな!」
そして、勢いよくバッグのジッパーを引き、怪物を仕留めるべく必殺の武器を手に取った。
「さあ、この貧乏ビルで苦しみ足搔き、壮絶な最期を迎えるがいい、昭和の都市伝説よ!」
邪悪な笑みを浮かべながら言うと、鷹藤は手に取った武器の蓋を捻った。
**************************************
占拠されてから数時間が経った今、金融会社のオフィスでは興奮を抑えられない信者達が窓の外の巨大な建造物を見つめながら“赤マント!”“巨大魔神!” 赤マント!”“巨大魔神!”と大声でコールを続けていた。
と、一人だけ冷静を保っている信者が葉咲に尋ねる。
「……どうしますか、葉咲様? 奴ら、もう精神的に限界です。大神様もこちらに迫っていて最後の祭事が始まるのも間近。もう全員解放してもいいのでは?」
その信者はフロアの隅に押しやり、拘束していた金融会社の社員達に顔を向ける。
社員達は畏怖の上にさらに疲弊が加わり、生気のないどんよりとした顔になっている。
「そうだな、もうじきここにいる全員で巨大魔神の元へ出発するうえ、もう奴らの使い道はない。最後の祭事の景気づけにここでまとめて精霊にしてやってもいいだろう」
「え……それは無意味な殺生では?」
「無意味? 言ったろ、祭事の景気づけだと。立派な理由ではないか?」
葉咲は言うと、陰でサイコパスと噂されるに相応しい冷淡な笑みを浮かべた。
「ゆ、祐華様にご相談してからでは?」信者が慎重な口調で訊いた。
「いらん、ここの指揮はこの私が任されている。さあ、皆の者、最後の祭事の景気づけだ!」
葉咲が言い、機関銃を構えると他の信者達も反応するように社員達に銃口を向けた。
自らが殺害されると悟った社員達が悲鳴を上げだす。
「え、な、なんで? お前らの言う事に従ったろ?」
「わ、私たちがいったい何をしたっていうのよ!」
「や、やめろ、撃つな! だ、誰か助けて! 俺にはまだ幼稚園児の子供がいるんだ!」
葉咲は命乞いが聞こえないかのように機関銃の向きを変えないまま静か笑みを浮かべる。
「フフフ……お前らに教えてやる。渋谷や恵比寿にいた下っ端のできそこないどもとは違って、我々は……
その言葉が合図のように信者達は一斉に機関銃を発砲が始まった。
社員達は絶叫を上げて走り出し、逃げ遅れ銃弾の餌食となった社員の血と肉片が天井や壁に向かって散乱した。
何事かとその赤き怪物の巨体に目を向ける通行人や車の運転手達に目もくれず、藻菊が携帯電話を耳に当てた。
「国道が事故渋滞で使い物にならないから、足でそっちに向かっている。後20分もあれば巨大魔神の元へ到着する。そちらはどうだ?」
「こちらは順調だ。残りの100人皆、やる気満々で脱落者は一人もいない。巨大魔神様も我々の突入を待ち遠しそうにこちらを見守っているぞ」電話からそう高揚した葉咲の声が返ってきた。
その時、若い会社員の男が動画を撮影しようと教祖に向かって携帯のカメラを向けた。
赤マントが立ち止まり、その社員と周りにいる同僚らしき男女グループに顔を向ける。
「大神、行けません。今は祝祭の最後の祭事に集中を……」
祐華の言葉は届かなった。
赤マントは十メートルの距離はあったその会社員達の元まで一瞬で飛躍し、カメラを向けた社員の頭の上にその大きな掌を乗せると、横に軽く回した。
「ワハハハハハハッ! 死ねえ、死ぬがいい、虫けらよ!」
激痛の声をあげる間もなく、その会社員は首を切断され、残された体が首元から血を噴き出しながら地面に崩れた。
「ひぃぃぃぃっ!」とその残虐な瞬間を目撃した周辺の通行人が、戦慄の表情を浮かべながら逃げ回り出す。
赤マントはまだ己の手のうちにある会社員の生首を見つめながら、己に満ち溢れている力に酔うように不気味な笑顔を浮かべる。
「大神! 道草をしている場合ではありません。最終地に、巨大魔神の元へ急ぎましょうぞ! 最後の、そして我が教団最大の祭事を開始するのです!」
だが、赤マントは自らの暴力の欲望に従うように、その場から必死に走り去る人間達向かって跳躍した。
「大神! いけません!」
祐華の訴えの後に、赤マントに捕まった会社員達の絶叫が轟き、周辺の道路に大量の血しぶきと引き千切られた手足が宙に散った。
「ぎゃあああああ!」
「う、うわあ、え、赤マント? え、う、嘘、まじか? や、やめろぉぉぉ」
「ひ、ひぃぃぃぃ! っだ、誰か助けて! 助けてくれー!」
藻菊が電話向かって訂正する。
「あー……と、到着までもう少し時間がかかるかもしれない。そのまま巨大魔神がいる前のビルで待機をしていてくれ」
言い、藻菊は電話を切ると、もはや視界に入る距離にある東京都庁の第一本庁舎を見つめ声を震わせる。
「も、もうすぐなんだ。もう目の前まで来ているんだ。必ず、赤マント様と祐華様を巨大魔神の元へ!」
*************************************
鷹藤は胃の中のモノをすっかり吐きだし終えると、恐る恐る顔を上げ口裂け女と童顔刑事の様子を確認する。
「…………」
先程はすぐ目の前にまでいたのに、いまや二人とも事務所の入り口の横まで距離を取り、その壁に背中をつけながらドン引きした表情で自分を見つめている。
「あー……話を聞かせてもらいたいんだけど……」
警察バッジをちらつかせながら困ったように言った口裂け女向かって、鷹藤は“待て”と言わんばかりに右掌を上に挙げた。
「その前にシャツを着替えてもいいか?」
二人は胸から腹まで汚物まみれの鷹藤に顔をしかめながらブンブンと首を縦に振った。
「失敬……」
呟いてから上着を脱ぎ、そそくさと建前は来客用応接室となっている小部屋に駆け込んで鍵を閉めると、鷹藤は声を出さないまま絶叫を上げるように口を大きく開いた。
あああああ、なぜだ? なぜここに口裂け女と若造刑事が捜査にやってきた?
どうやってここを知った? 足がつくような落ち度は何もなかったはずだ!
だが現に奴らはこの小林商事の事務所に姿を現せたうえ、今回の教団のテロとアカネ十字社の変な薬について聞きたいと主張している。
「なんでこんな事態に、なぜだ!」」
ここで計画を終わらせるわけにはいかない。アカネ十字社にとって全てが順調に進んでいる。教祖は強力な兵器と化し、見込み客が見ている中、破壊の限りを尽くすショーが継続されている。
警察がどこまでキ〇ガイ教団のテロとアカネ十字社の繋がりを把握しているか分からないが、ここはどんな手を使ってでも二人を処分して切り抜けなくてはならない。
この場でだ!
若造刑事の方は簡単な圧力だけでこっちに尻尾を振る事になるだろう。なにせアカネ十字社は警察の上昇部にまで深い繋がりを持っている。
それに何も焦る事はない。あの昭和の化物でさえも恐れるに足らずだ。元から口裂け女を始末するために元刑事のジジイと警察と自衛隊あがりの狙撃手を何人も雇っている。奴らに連絡してすぐにここを襲撃させ全てを終わらせよう。あの口裂け女の伝説がこのカビ臭い安い雑居ビルで蜂の巣となって終焉するのだ。
「ククククク」
己の悪運の強さに今回、身にこびり付いた笑い声をあげながらスマートフォンを持とうと胸に手を当てた時、一気に鷹藤の顔が暗いものになった。
「あ……」
スマートフォンをポケットに入れたままの上着……今、さっき着替えるって言って脱いで自分の机の上に置いてきちゃった……。
鷹藤はPKを外したサッカー選手のように両手で頭を抱え、膝から崩れた。
「ノオオオォォォ!」
い、いや、待て。大丈夫だ、奴らの手を借りずとも俺はこの窮地を切り抜けられる。
そうだ、ありとあらゆる事を想定し、全て準備をしてきたじゃないか。
万が一口裂け女と遭遇し、牙をむかれるような事があった時の対策まで滞りなく!
「そうだ、なめるなよ、俺を誰だと思っている。鷹藤一族の血を引く者だぞ。俺ならできる。都市伝説の怪物だろうと俺の手で葬ってやる! こんな事態が生じた時のために用意していた武器を使って地獄へ送ってやる!」
自分を奮い立たせるように力を込めてそういうと、鷹藤はソファーの上に無造作に置いてあったボストンバッグを手に取った。
「まさかこの俺が自らの手で口裂け女を始末する時がくるとはな!」
そして、勢いよくバッグのジッパーを引き、怪物を仕留めるべく必殺の武器を手に取った。
「さあ、この貧乏ビルで苦しみ足搔き、壮絶な最期を迎えるがいい、昭和の都市伝説よ!」
邪悪な笑みを浮かべながら言うと、鷹藤は手に取った武器の蓋を捻った。
**************************************
占拠されてから数時間が経った今、金融会社のオフィスでは興奮を抑えられない信者達が窓の外の巨大な建造物を見つめながら“赤マント!”“巨大魔神!” 赤マント!”“巨大魔神!”と大声でコールを続けていた。
と、一人だけ冷静を保っている信者が葉咲に尋ねる。
「……どうしますか、葉咲様? 奴ら、もう精神的に限界です。大神様もこちらに迫っていて最後の祭事が始まるのも間近。もう全員解放してもいいのでは?」
その信者はフロアの隅に押しやり、拘束していた金融会社の社員達に顔を向ける。
社員達は畏怖の上にさらに疲弊が加わり、生気のないどんよりとした顔になっている。
「そうだな、もうじきここにいる全員で巨大魔神の元へ出発するうえ、もう奴らの使い道はない。最後の祭事の景気づけにここでまとめて精霊にしてやってもいいだろう」
「え……それは無意味な殺生では?」
「無意味? 言ったろ、祭事の景気づけだと。立派な理由ではないか?」
葉咲は言うと、陰でサイコパスと噂されるに相応しい冷淡な笑みを浮かべた。
「ゆ、祐華様にご相談してからでは?」信者が慎重な口調で訊いた。
「いらん、ここの指揮はこの私が任されている。さあ、皆の者、最後の祭事の景気づけだ!」
葉咲が言い、機関銃を構えると他の信者達も反応するように社員達に銃口を向けた。
自らが殺害されると悟った社員達が悲鳴を上げだす。
「え、な、なんで? お前らの言う事に従ったろ?」
「わ、私たちがいったい何をしたっていうのよ!」
「や、やめろ、撃つな! だ、誰か助けて! 俺にはまだ幼稚園児の子供がいるんだ!」
葉咲は命乞いが聞こえないかのように機関銃の向きを変えないまま静か笑みを浮かべる。
「フフフ……お前らに教えてやる。渋谷や恵比寿にいた下っ端のできそこないどもとは違って、我々は……
本気だ
!」その言葉が合図のように信者達は一斉に機関銃を発砲が始まった。
社員達は絶叫を上げて走り出し、逃げ遅れ銃弾の餌食となった社員の血と肉片が天井や壁に向かって散乱した。