第15話「抗争」

文字数 2,513文字

 フィンとウォッカは、キールの研究室にいた。
「…よし、ブルーローズの聖羅を倒したんだな。」
「しかし、あまりにもあっけなかった。他にはグールがいただけで、バンパイアなんかいなかった。」
 フィンが言うと、キールは腕を組んだ。
「他にバンパイアがいなかったと?それはおかしいな…。それとも、既にレッドローズにやられたか?」
「ブルーローズなんていって、実は仲間もなにもいなかったんじゃないの?聖羅って、なんか仲間とかいなさそうな感じだったし。グールを家に置いてたくらいだから…。」
「ふーむ。とりあえず、聖羅を倒して、連中に何か動きがあるはずだ。しばらく様子を見よう。」
「ブルーローズの情報は他にないのか?アジトは聖羅の家だけなのか?」
 フィンが聞いた。
「今の所、情報はそれだけだ。あとは、ホワイトローズと組んでいるということだけだが。」
「…ホワイトローズの情報は?」
「前に言った情報だけだ。グリーンシティから研究資料を持ち出した、ブラックローズのナンバー2。そいつがホワイトローズのリーダーらしいということだけ。」
「…情報が少なすぎないか?よくそれでバンパイアを潰すとか…。」
「だからこそ、今がチャンスなんだ。バンパイア同士が争っている隙に、奴らについて調べて、一気に潰す。」
「そういや、聖羅は、何か特殊な力を持っているようだったが…。奴に触れられたとき、電流が走って動けなくなったんだ。」
「それは、サイバーの力だろう。もしかすると、奴もサイバーだったのかもな。」
「バンパイアなのに?」
 ウォッカが聞いた。
「ああ。手術して体の一部をサイバー化したんだろう。バンパイアでも、技術さえあれば手術は可能だ。」
「聖羅以外もサイバーだったら厄介だな…。サイバーに対しての対処法はないのか?」
「…そのための訓練をしないとな。よし、バーボンに頼んでやろう。」
 そこへ、キールのBOXに連絡が入った。
「…何?レッドローズと?分かった。」
 キールは通話を切った。
「レッドローズがブルーローズの縄張りに入って、今やり合っているらしい。レッドローズを監視している仲間からの連絡だ。」
「…バンパイア同士の戦いか。ちょっと見てみたいな。」
 フィンが言った。
「うむ。場所は、アクアシティから北西にある町、ルーシャンだ。おそらく、聖羅が倒れた今、レッドローズが勝つだろうがな。そうなれば、レッドローズとホワイトローズの戦いになるだろう。しかし、お前たちはサイバーの対処法を知らんだろう。まず先にそっちの訓練をした方がいいだろう。」
 フィンとウォッカは、訓練所に向かった。

 ちょうどその頃、ルーシャンに綺羅が到着した。
「あ!綺羅!」
 ブルーローズの者が綺羅に向かって走って来た。
「大丈夫か?」
「俺は…だけど、このままじゃあマズイ…!」
 レッドローズがブルーローズの者を次々と倒していた。
 バンパイア同士の戦い。負けた方は、首をはねられ、二度と再生できなくされていた。
「レッドローズの頭もいる。ハンパなく強い女だ。」
「俺がやる!」
 綺羅は怖い顔になって、戦いの場へ姿を現した。
「お前がブルーローズの聖羅か?」
 長い赤い髪をポニーテールにした女が、片手にバットを持って、せせら笑うように言った。
「違う。俺はその弟の、綺羅だ。」
「なんだ。聖羅じゃないのか。せっかく、リーダーもろとも、ぶっ潰してやろうと思ったのにさ。」
「聖羅は死んだ。俺が新しいリーダーだ。」
「へえ、そうかい。あたしはクレナってんだ。」
「いくぞ!」
 綺羅は、正面からクレナに向かっていったかと思うと、高く跳躍し、背後に回り込んだ。
 そして、クレナのバットを奪い取って、羽交い絞めにした。
「おお、なかなかやるじゃないか。」
 しかし、クレナは動揺もしていなかった。
 突然、クレナの体が炎に包まれた。
「なに!?」
 羽交い絞めにしていた綺羅に火が燃え移り、綺羅は急いでクレナから離れた。
 綺羅の仲間が、どこからか汲んできた水を綺羅にかけたり、着ていた服で火を消しにかかり、なんとか火は消えた。
 しかし今の火で、綺羅の肌は火傷し、服もボロボロになった。
「アハハ、いい男が台無しだねえ。」
 綺羅は、ぎろりとクレナを睨んだ。
「まさかお前…サイバーか?」
 クレナは答える代わりに、綺羅に向かって口から火を吹いてみせた。
「ホワイトローズと手を組んだらしいけど、あの女には気をつけな。自分以外を実験体としか見てないからね。」
「……。」
「もういいだろ。決着はついた。これでほとんどブルーローズもおしまいだろ。全滅させちゃ可哀想だからね。アハハ。」
 クレナはそう言って、レッドローズの仲間たちと共に帰っていった。
「くそ!」
 綺羅は、地面に拳をぶつけた。
「まさか…奴の手術をユリスが…?一体何故…。」
「これで俺たち…5人になっちまった…。ちくしょう…。」
 仲間は泣いていた。
「俺が情けないばかりに…。すまん。」
「綺羅が悪いわけじゃない。こうなったのも、聖羅のせいだ…!」
「聖羅が何かしたってのか?」
「あいつはただ遊んでただけならまだしも…。よりによって、さっきのあの女、クレナの力を見ただろ。あれは間違いなくサイバーの力だ。バンパイアのじゃない。聖羅は、クレナに誘惑されて、サイバーのことを教えたんだ。それでクレナが自らユリスの手術を受けたらしい。」
「…しかし、ユリスは俺たちと手を組んだんだ。レッドローズの頭のクレナにそんなことをするだろうか?」
「綺羅も目を覚ましてくれよ。ユリスは、実験のことしか考えてない。手を組んだのだって、俺たちのためじゃなく、金のためなんだ。昔のことは俺は知らないが、綺羅はユリスに騙されているんだ。」
「……。」
「そのうち、綺羅もあの女に、実験体にされるよ。」
「…それで強くなれるならそれでも構わない。」
「な!?」
「お前、もうブルーローズはなくなったも同然だ。ゴーレムやユリスに捕まる前に、逃げた方がいい。」
「綺羅はどうするんだ。」
「俺は…レッドローズを潰して、ブラックローズを潰して、バンパイアの頂点に立ってやる。」
「正気か!?」
「俺のことはいいだろう。じゃあな。」
 綺羅は仲間たちに別れを告げて去った。
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